2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K23150
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小出 隼人 東北大学, 法学研究科, 助教 (60844818)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 贈与 / 寄付 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度においては、寄付の類型について法的な分析を行うための前段階の作業として、現代社会における寄付の類型を把握することを目的に研究を進めてきた。主に文献の調査を行ってきたが、文献の調査に関しては法学に関する文献のみならず、社会学、文化人類学に関する文献の調査も行った。さらに、実務的な寄付の仕組みに関する文献の調査を行い、現代社会における寄付の類型について把握することに力点をおいて研究を進めてきた。 その結果、日本では、寄付市場は欧米諸国に比べそれほど盛んではないが、東日本大震災をきっかけに寄付が注目され、寄付を通じて被災者を支援する人々が多くみられるようになり、現在では、寄付は様々な慈善活動をNPO法人を支える重要な財源にもなっていることが明らかになった。寄付の類型に着目すると、義援金等の寄付では、寄付者、寄付を集める募集者、寄付の受益者の三者が関与して行われる寄付以外にも、寄付者と寄付の受益者が一致する場合(町内の祭事のための寄付等)、募集者と受益者が一致する場合(NPO法人が自身の活動のために集める寄付等)、さらには、三者間での寄付にも、特定人のための寄付金を募集する場合(特定の交通事故の遺児等)、ある範囲に属する不特定人のための寄付金を募集する場合(震災における被災者等)があると分析した。 そして、これまで寄付を法的にどのように捉え、構成するかといった問題については、前述の三者間で行われる寄付に着目して議論が進められてきたようであり、寄付者から寄付が募集者に信託的に譲渡される信託的譲渡説が通説化してきたが、そのほかの寄付の類型についてはあまり着目されて議論されていないことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究結果を踏まえ、現在、日本法における寄付の法的構成に関する学説の整理・分析を行っている。近年では、三者間で行われる寄付を、信託的譲渡と構成するだけではなく、信託法によって構成する見解もみられる。しかし、なぜ信託的譲渡、信託法によって構成することが適切なのか、そこで狙われている法的効果は何なのかといった問題について検討が十分に行われてきていないことがわかった。また、初期の学説には、三者間で行われる寄付以外の寄付の類型に言及するものもあり、広く寄付の類型に着目した議論を展開する必要性を認識していたことも確認できた。 外国法に関してはドイツ法を中心に文献調査、分析に着手しているところである。ドイツ民法典では、寄付に関する条文を有し(1914条)、この条文の制定を契機に、古くから寄付の法的構成に関する議論の蓄積がみられ、学説が多岐にわたって展開されていることが確認できている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、引き続き日本法における寄付の法的構成に関する学説の整理・分析を進めて、学説の到達点を示したいと考えている。ドイツ法についても引き続き文献調査、分析を行い、従前の議論において、どのような寄付を対象に議論を進めていたのか、学説上ではどのように寄付が定義されているのかを明らかにし、各論者の見解について詳細に検討していく予定である。 その上で、寄付をどのように法的に捉え構成すべきかといった問題について、これまで議論の中心であった三者間で行われる寄付の類型のみならず、そのほかの寄付の類型についても言及したいと考えている。また令和2年度は、以上の成果を学術論文の形で公表していきたいとも考えている。
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Causes of Carryover |
本研究では、書籍(和図書及び洋図書)の購入が研究遂行に必要不可欠となるためである。現代の寄付の実態を探るために、民法分野、法学分野以外の寄付に関する文献の収集は概ね完了しているが、令和2年度の研究計画の、ドイツ法の文献調査が全て完了していない。そのため主にドイツ法に関する文献の収集を網羅的に行うために助成金を使用する予定である。
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