2019 Fiscal Year Research-status Report
現代の大学ガバナンス改革における立法裁量の憲法的統制
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19K23151
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
栗島 智明 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (90846453)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 学問の自由 / 大学の自治 / 大学改革 / 価値決定 / 基本権の二重の性格 / ドイツ型大学 / 制度体保障 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、わが国の憲法学における大学の自治の制度的保障理解および戦後における大学の変容の問題を中心に研究し、その成果を論文として発表した。今年度の補助金は、主に上記の研究を遂行するための文献の購入費に充てられた。 上記研究に関する論文は「『価値決定』としての学問の自由」憲法理論研究会編『憲法理論研究会叢書27 憲法の可能性』(敬文堂、2019年)71-84頁に掲載された。近時、大学の自治をもって公法上の制度体保障(institutionelle Garantie)として理解する見解が提唱されているが、かかる所説は「ドイツ型」帝国大学が日本国憲法においても引き続き保障されている、とするものである。これに対して、本論文では、戦後における大学の変容、とりわけ、新憲法制定とほぼ同時期に進められた日本独特の大学改革に鑑みれば、「ドイツ型」帝国大学という制度体の憲法上の保障という立論には困難があることを指摘した。また、そのような立論は、帝国議会における審議過程における議論、および、大学史上、一貫して「私学」が重要な役割を果たしてきたというわが国の事情と整合しないことが明らかとなった。 そこで、制度的保障論に代わる議論として、学問の自由規定をもって価値決定的な原則規範として捉えるドイツの解釈論が参考になる。上記論文では、このような「価値決定」としての学問の自由解釈をわが国においても採りうるか否かについて、基本権総論ないし他の個別基本権についての学説および判例を参照しつつ検討した。 また、7月にはドイツに出張し、憲法・学問法を専門とする研究者らと意見交換を行う機会を持つとともに、本研究の成果として、フランクフルト大学において「Entwicklung und Struktur des japanischen Hochschulrechts」(「日本の大学法の発展と構造」)と題する講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究は、予定通り、大学の自治の制度的(ないし制度体)保障を語る際に前提とされる「ドイツ型」大学とその受容に関する歴史的前提を問い直すことに重点を置き、その作業はおおむね順調に進んでいるといってよい。 具体的には、教育学者パウルゼンによってモデル化された「ドイツ大学」について、彼の著作を収集して読み解く作業を行うと同時に、わが国の戦後の高等教育改革についての文献を収集し、分析を行った。わが国に関する歴史分析の過程では、戦時中から存在した多種多様な高等教育機関が「大学」という名の下で一元化され、かつ、その際設置要件が帝国大学のレベルに引き上げられたわけではなく、むしろ、旧専門学校の水準への「下降的一元化」が行われた事実が明らかとなった。そこで、仮に帝国大学教員の有してきた権利を身分的特権と呼ぶとすれば、それが新制大学とその教員(旧師範学校や旧専門学校等の教員も当然含まれる)にまで広げられたのか否かが問題となる。 さらに、ドイツ大学の特質として、パウルゼンは、大学教授が第一義的に学術的研究者であり、同時に教師でもある点を強調していたことから、ここに深刻な問題が潜んでいることが判明する。さらに、これと関連して、戦後改革における旧制高校の廃止と大学の開放をどう考えるか、という問題があることが明らかとなった。すなわち、新制大学の学部課程(undergraduate)ではアメリカ式の「一般教育」が行われることになり、いわばその「代償」として、専門性を深めるための課程制大学院(graduate school)が新設されるに至った。今後は、このような歴史的前提を踏まえて、戦後の大学の自治論の解釈が行われる必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、基本的に前年度の内容を踏まえて計画通り進められるが、特に「価値決定」としての学問の自由の内実をより明確化していくことが課題となる。具体的には、個人の「学問の自由」の保障内容およびそれに対する侵害メルクマールとしての「構造的危険」を明確化することで、大学改革立法の憲法的統制の具体的手法を明らかにしていく。そのための手法として、ドイツ判例法理・学説を詳細に分析し、比較研究を行うことを予定しており、それゆえ当初は、ドイツでの現地調査および学問法の専門家との意見交換を計画していた。しかし、コロナ禍によって年度内の海外出張は断念せざるを得ない可能性が高い。その場合には、海外出張のための費用については翌年度への繰り越しをすることも検討する。
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Research Products
(3 results)