2020 Fiscal Year Research-status Report
現代の大学ガバナンス改革における立法裁量の憲法的統制
Project/Area Number |
19K23151
|
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
栗島 智明 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (90846453)
|
Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
|
Keywords | 学問の自由 / 大学の自治 / 大学ガバナンス / 制度的保障 |
Outline of Annual Research Achievements |
こんにちの大学は、少子高齢化とグローバルな成果競争の下で、ガバナンス強化、研究力の向上、教育の質保証など厳しい改革圧力にさらされている。このような現状のもと、理念化された19世紀ドイツ型の「大学」像を前提として組み立てられた従来の「大学の自治」論は、現状の大学の姿から著しく遊離し、その意義を喪失しつつある。本研究は、〈大学制度の構築・改変に際して「学問の自由」からいかなる要請が導き出されるか〉という問いについて、日独比較による分析を行い、もって改革圧力にさらされる現代の大学においてもなお研究者の自由かつ独創的な学問営為がなされうるための憲法理論の基盤を構築することを目的として、進められてきた。 本研究の遂行によって明らかとなった知見は以下の通りである。 たしかに「大学の自治」論は、学問の自由を保障するために必要不可欠である。しかし、伝承されてきた「大学の自治」論のなかに、自由な研究教育にとって重要な要素が数多く含まれるとしても、その原型に過度に固執することはかえって議論の本質を見失うことになりかねない。むしろ〈自由な学問が行われる環境を制度的にどう構築するか〉という観点から、議論を出発させるべきである。 ここでの議論の出発点は、憲法23条によって、学問の自由に適合的な制度(インフラ)を構築する積極的義務が国に課されているという点にある。そのような国家の義務の根拠は、憲法23条による制憲者の価値決定に求められるが、同時にそれは、大学が中心となって担う「学問」という任務の高い公共性によっても基礎づけられる。したがって、これは研究者に課された「職責」と裏腹の関係にある。ゆえに、ディシプリンごとに構成される学問共同体が重要な役割を果たすのであり、共同体の自律的決定を尊重し、また、そのなかでの自浄作用を高めていくことが、共同的な理性の営みである学問の自由の基盤をなすと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究はこれまで、以下の二つの研究テーマを中心に進められてきた。 第一は、制度的保障を語る際に前提とされる「ドイツ型」大学とその受容についての歴史的前提を問い直すことである。大学制度は時代とともに常に変容しており、そこには、学問の自由から要請される論理必然的な一定の形態が存在するわけではない。これを明らかにするため、日独における「大学」の歴史的な生成と現代の大学改革による変容の過程をそれぞれ検証してきた。これによって、従来の「大学の自治」理解の妥当可能領域とその限界を画定させるとともに、時々の大学制度が構成員の「学問の自由」との関連でいかに評価されるかを明らかにすることができた。 第二は、「学問の自由」という基本権がいかなる規範的内実を有するか、それが「大学」制度といかなる関係にあるのかを明らかにすることである。わが国ではこれまで「『学問の自由』のコロラリーとして『大学の自治』が保障される」と単純に説明されてきたが、両者(「権利の論理」と「制度の論理」)の関係は明らかにされてきたとは言い難く、その問題が、ひいては「大学の自治」の内容の不明確さにつながっていた。そこで、本研究では、大学をめぐる従来の憲法論において「制度の論理」に入り混じって論じられてきた「権利の論理」を剔出し、個人の「学問の自由」の保障内容とそれに対する「構造的危険」を侵害メルクマールとして明確化することで、大学改革立法の憲法的統制の具体的手法を明らかにしてきた。 以上のテーマについて研究はおおむね順調に進展してきたといえるが、第一点に関連して、ドイツの大学ガバナンス改革の最新動向に関する研究にはいまだ課題が残っており、予定よりやや遅れているといわざるを得ない。この遅れは、コロナ禍により海外出張が不可能となったため、ドイツでの関係者へのインタビュー・意見交換と文献調査を行うことができなかったことに起因する。
|
Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍により、世界中で大学のあり方が変容した。ドイツもこの点で例外ではない。迅速な危機対応のために、緊急避難的に大学執行部の権限強化が必要であったことは否定しえないが、今後、大学が平常体制に戻った際に、再び大学教員の参加権が保障され、ボトムアップ組織体制を立て直すことができるかが、大きな問題となる。さらに、ロックダウンの状況下で学術文献のオンライン・アクセスの重要性が改めて見直され、また、デジタル教育の可能性とともにその問題点も明確になってきた。 本研究を開始した当初には、現在の状況はまったく予想されていなかったが、このように、研究課題と密接に結びつく新たな問題群が突如として浮上している。ドイツの大学ガバナンス改革の最新動向についての研究が予定通りに進んでいないことは上述した通りであるが、今後、感染収束に伴い、現地でのインタビュー・意見交換・文献収集が可能になることを期待しつつ、コロナ禍によって新たに生じた上述の問題群についても、本研究の残りの一年間で精力的に取り組んでいく。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍により、研究プロジェクトの見直しを余儀なくされ、それに伴って研究費の使途も大幅に変更せざるを得なくなったため。
|
Research Products
(12 results)
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
[Book] イレズミと法2020
Author(s)
小山 剛、新井 誠
Total Pages
278
Publisher
尚学社
ISBN
978-4-86031-164-3
-