2019 Fiscal Year Research-status Report
Studies on Charles L. Black's Theory of Judicial Review
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19K23152
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
川鍋 健 一橋大学, 大学院法学研究科, 特任講師(ジュニアフェロー) (90845661)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 違憲審査の民主的正当性 / 反多数決主義の難点 / チャールズ・L・ブラック / イェール学派 / アメリカ憲法学 / 憲法理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、裁判所による違憲審査の民主的正当性について検討するために、アメリカの憲法理論、特にそのような民主的正当性を強く肯定する議論を展開したチャールズ・ブラックの憲法理論について研究した。具体的には、ブラックの執筆した一次文献、ブラックの議論を検討した二次文献を収集し、分析、検討した。 そこでは、ブラックが裁判所による違憲審査制を、一般の人々が憲法の解釈にアクセスし、政府の憲法解釈に異議申立てする手段と捉え、民主主義に不可欠な制度である、との認識を抱いていたことが明らかになった。それは、1950年代以降ブラックが訴訟代理人としても携わった、訴訟運動としての性格も持っていた合衆国市民の権利運動(Civil Rights Movement)を通じて、アメリカの多くの一般市民が「法の下の平等(合衆国憲法上の文言ではequal protection of law)」に関して政府とは異なる解釈を主張し、結果として政府にも一般市民の解釈を受容させたことを背景とするものであった。 このようなことが明らかになったことについては、従来、選挙によって選ばれてはいない、という意味では反民主的な裁判官が、なぜ民主的に制定した法律について違憲無効と判断できるのか、といういわゆる「反多数決主義の難点(counter-majoritarian difficulty)」の問題について、裁判所による違憲審査の民主的正当性を理論的に説明するのは困難だ、と言われてきたが、民主的正当性を説明できる可能性がある、ということを示しており、重要な意義がある。 このような研究の内容について、2020年2月、論文「新たな憲法解釈の誕生:チャールズ・L・ブラックの議論から」の題で論文としてまとめ、一橋法学(一橋大学大学院法学研究科)19巻2号に投稿を申請した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年4月、研究成果としてまとめた論文「新たな憲法解釈の誕生:チャールズ・L・ブラックの議論から」について、査読審査を経て、19巻2号への掲載が認められた。査読審査にあたっては、査読者から研究の意義について、違憲審査の民主的正統性を弁証するものとして高く評価できる旨の評価を得ることができた。本論文は、2020年7月に公刊予定である。 この研究成果については、いくつかの学会、研究会での報告を計画している。それを通じて、さらに本研究に対するフィードバックを得ることを通じて、違憲審査の民主的正統性に関する理論的諸問題について、研究の精度を高めたいと考えている。これらのことから、本研究課題の進捗はおおむね順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
この研究成果については2020年9月に、松尾隆佑宮崎大学講師が主宰する「政治と理論研究会」での報告が予定されている。同研究会は、従来、主催者の専攻である政治思想専攻者を中心として、憲法学を含む広く社会科学諸分野の学際的な報告と討議が行われている研究会であり、憲法学界においても、有力な若手研究者が報告し、有益なフィードバックを受ける場として知られている。ここでの報告、質疑応答、議論を通じて、違憲審査の民主的正統性をめぐる議論について、憲法学のみならず政治学など隣接諸分野の知見を参照し、法学のみならず広く社会科学にとっての本研究の意義について明らかにしたいと考えている。
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Research Products
(1 results)