2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K23153
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高岡 大輔 九州大学, 法学研究院, 准教授 (60850857)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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Keywords | 権利侵害警告 / 保護権警告 / 信用毀損 / 営業権侵害 / 営業誹謗行為 / 不当訴訟 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ドイツ法における保護権警告及び不当訴訟・不当仮差押え、司法手続外における不当請求一般に関する判例と学説とを分析し、保護権警告に関するドイツ法の規律が損害の種類に応じて異なることが明らかとなった。 第一に、警告に一時的に応じたことによる損害は、実質的には不当利得返還であるが、それを補強するものとして、権利状況の判断の誤りに関するリスク分配の考慮がある。すなわち、被警告者側は、権利状況の判断を誤って保護権侵害を行った場合に、その侵害行為によって実際に権利者に与えた損害だけではなく、侵害行為によって自らが得た収益の賠償を課されることがある。このリスクとの均衡から、警告者側も、判断を誤って警告を行った場合には、被警告者が一時的に警告に従ったことにより警告者が実際に得た利益だけではなく、被警告者側の逸失利益全部の賠償責任を負う。 第二に、信用低下による損害については、信用毀損の一般原理を、営業保護という形で拡大したものである。すなわち、ドイツ法においては警告は事実の告知ではなく法的見解の表明であるため信用毀損の規定を適用できないのであるが、それでもこの類型に保護を与えるべきことから、営業権侵害の形式が用いられている。 このような損害に応じた分析は日本法の下では従来行われてこなかったものである。そこで、日本法の従来の学説・判例についても、この観点からの分析を行った。その成果は、まだ公表には至っていないが、論文として執筆を進めており、公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、完了年度までに論文の形で公表することを予定していた。しかし、コロナウイルスに起因する学会の延期や出張制限などに伴い、意見交換や資料の入手に支障が出たことなどが影響して、やや進捗に遅れが出てしまい、まだ執筆の途中である。また、日本国内で入手することが難しい資料があり、ドイツでも既に絶版になっていたり、出版社の都合ですぐに入手できなかったりした部分がある。 本来の進行予定では、ドイツ法の判例を分析した結果得られた示唆を用いて日本法の判例・学説の分析を行い、その成果を論文とすることになっていた。このうち、ドイツ法の判例分析は行うことができたが、日本法の分析及び論文の執筆はまだ途中である。とりわけ、日本法の下で主として問題となる損害が、ドイツ法におけるそれとはややズレがあり、警告に一時的に応じたことによる損害は実際には発生しているとみられるにもかかわらず裁判例や学説の上には現れることが少ないこと、日本法の下での議論が顧客警告に集中してきたことの影響で、直接警告についてはほとんど議論がなく一からの考察となったことなども、当初の予定から遅れが生じた原因となっている。 それらの点を除いた検討については、概ね予定通りに進めることができた。ただし、信用毀損の一般的枠組みの中での権利侵害警告による責任の位置づけについては、もし可能ならば本研究の延長線上で行うことを考えていたが、大きな広がりを持つ問題であり改めて計画を練り直すことが適切であると考えられたことから、別の機会に研究を行いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
ドイツ法における保護権警告に関する判例・学説の分析と、不当請求一般あるいは不当訴訟・不当仮処分等との比較検討によって得られた示唆は、日本法の下でも一定の価値を持つと考えられる。 すなわち、日本法においても、権利状況の判断の誤りのリスクに関して、各種知的財産法規の持つ損害額の推定規定が、不法行為法の一般的リスク分配を変動させており、これによってリスク分配の均衡が崩されないようにするためには、不当な権利侵害警告による責任を一定の要件の下で課すことが正当である。また、警告に一時的に応じたことによる損害は、本来は不当利得返還的要素を強く持っているにもかかわらず、この点の検討は日本法において従来あまり行われてこなかった。信用毀損の観点からの検討は、日本法の下でも顧客警告について従来からよく行われてきていたが、上記のような不当請求的観点からの検討と合わせることで、直接警告についても不法行為責任が妥当しうる領域があることが明らかになると考えている。そこで、こうした点についてさらに分析を進めた上で、研究論文を完成させ公表することを予定している。 以上に対して、信用毀損の点に関するさらなる検討、とりわけ、顧客警告のような競争型の信用毀損を、信用毀損一般の中でどのように位置づけるか、信用毀損の一般的な要件とどのような差異が生じるかといった点の検討は、本研究の枠内で扱いきることができない問題であったため、より大きな視点から改めて検討を行うこととする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス等の影響で私法学会をはじめとする各種学会、また研究報告などを内容とする研究会が中止になり、出張費を支出することができなかった。また、購入しようとした文献の一部(ドイツ法の戦前の判例集)が現在では入手できなかったなど、年度中に使用しようとした用途にも支障があった。 これらの次年度使用額は、他の文献を入手するために用いるか、または社会的状況が改善して出張等が可能になり研究会も開催されるようになれば、その出張費等に支出することを予定している。
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