2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K23157
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
山下 祐貴子 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 講師 (00843070)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 親子関係 / 父子関係 / 否認 / 社会的家族的関係 / ドイツ親子法 / 改正提案 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、法的な親子関係の創設・否認の場面で、子の利益をどのように捉え、いかにして確保すべきかについて検討するものである。これを検討するにあたり、本研究は、我が国と同様に生物学上・血縁上の親子関係を基礎として法的親子関係の確定を企図するドイツ親子法を比較対象としている。 2019年度は、法的父子関係の否認に焦点を当て、ドイツにおいて2004年に導入された生物学上の父の否認権について、これがどのような特徴や意義を備えたものであり、導入後どのように運用されているのか、最新の裁判例や学説を調査し、これを子の利益の視座から再分析した。また、連邦司法・消費者保護省の設置したワーキンググループにより、2017年に公表された改正提案の内容や、提案に至るまでの議論、及びその後の議論を、子の利益の視座から考察した。 以上の研究を通して、生物学上の父による否認を阻む法的な父と子との間の「社会的家族的関係」について、家族ないし親子の実態を正面から受け止めた柔軟な解釈がなされていることを明らかにした。もっとも、家族の定型にとらわれない柔軟な解釈をする場合、法的な父のみならず、生物学上の父と子との間にも社会的家族的関係が存在する場合がありうる。そこで、生物学上の父と子との間の社会的家族的関係にも法的な意味を認めるべきではないかが問われ、改正提案ではこの点についても考慮されていること、さらに、子からの否認についても、社会的家族的関係に大きな意味を持たせ、血縁関係の存在以上に社会的家族的関係の存在を重視して、血縁主義を制限しようとする提案が行われていることを明らかにした。なお、以上の研究成果については、比較法学会第82回総会における個別報告や、比較法研究の執筆を通して公表している(「ドイツ親子法における父子関係の成否と社会的家族的関係」比較法研究81号(2019年)225-228頁)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、法的父子関係の否認に焦点を当て、重要な文献の収集・精読に傾注することを予定していた。特に、2017年の改正提案については、否認の箇所について子の利益の視座から検討を加える予定であったが、改正提案の否認以外の箇所についても精読・分析を進めることができた。 さらに、2019年度の研究成果については、比較法学会第82回総会における個別報告や、比較法研究の執筆を通して、公表することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、法的な親子関係の創設・否認の場面で、子の利益をどのように捉え、いかにして確保すべきかについて検討する。2019年度は、主に法的父子関係の否認に焦点を当て、研究を進めたため、次年度は法的親子関係の創設に焦点を当てる。具体的には、改正提案に至るまでの議論や裁判例、提案の内容だけでなく、最終報告書を含めたその後の議論等についても整理、検討し、考慮要素を抽出するとともに、それを子の利益の視座から分析する。これらを通して、ドイツでは法的親子関係の創設の際に、子の利益をいかなるものと理解しているのかを正確に把握し、どのように確保しているのかを明らかにする。 また、これまでの研究は、特に生物学上の父による否認についての検討が中心となっていたため、法的な父、母、子といった他の否認権者についても、考慮要素の分析や子の利益の視座からの検討を行う。 さらに、可能であれば現地調査を行い、家庭裁判所と連携しながら少年援助の実施・監督を担当する行政機関である少年局や、裁判所を訪ね、ヒアリングを通して、実態を正確に把握する。これらを通して、実務上の問題点も明らかにし、日本法への示唆にまで踏み込んだ分析を目指す。
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Causes of Carryover |
ドイツ家族法に関するデータベースの契約が予定よりも遅れたため、費用に残額が生じた。また、2019年度は学会や研究会への参加を一部自費で賄ったことも理由として挙げられる。2020年度は4月からデータベースを継続して契約するとともに、雑誌、書籍の購入や、学会、研究会への参加に使用する。
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