2019 Fiscal Year Research-status Report
民事訴訟の証拠調べにおける当事者公開主義の保障内容の解明
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19K23159
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
池邊 摩依 立教大学, 法学部, 助教 (90846875)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 民事訴訟法 / 当事者公開の原則 / 当事者権 / 立会権 / 陳述書 / 証人の書面尋問 / ドイツ民事訴訟法 / 民事証拠法 |
Outline of Annual Research Achievements |
民事訴訟の当事者に「立会権」「通知を受ける権利」「記録閲覧権」等の権利を保障することで、当事者への訴訟経過の公開を確保する原則である「当事者公開の原則」が、民事訴訟の個々の場面で、どこまでの権利を保障するのかについて、統一的な基準を獲得することが、本研究の最終的な目的である。当該年度は、その準備として、当事者公開原則の具体的な適用の態様を解明した。すなわち、当事者公開原則が適用される個別の場面として、民事証拠法の分野において従来議論の多い「陳述書」「証人の書面尋問」および「私鑑定」をめぐる問題を取り上げ、先行研究を整理し、当事者公開原則の観点から分析を加えることで、問題の所在を解明した上で、問題解決の方向性を示した。 たとえば、「陳述書」をめぐっては、従来、裁判実務上の必要性を主張する見解が強力に主張されており、また、裁判実務における陳述書の利用に理論的な基礎を与えようとする議論も活発で、数多くの先行研究が存在する。本研究では、まず、これら従来の議論が、裁判実務上の必要性の観点ならびに、口頭主義および直接主義との関係からのみ、陳述書の適法性を論じていることを明らかにした。続いて、新たに、当事者公開の観点から分析を加えることにより、陳述書の問題性は、必要性の有無や、裁判所がどのように陳述書に接するか(「直接」検分できるが「口頭」によらない)という点ではなく、そもそも陳述書が作成される経過が相手方当事者に公開されない点にあることを、初めて解明することができた。最後に、当事者公開の観点からは、制度上、当事者に「立会権」や「記録閲覧権」を保障することで、この問題を解消する必要があるとの解決の方向性を示すこともできた。 以上から、目的としていた成果を獲得できたと考えられるため、この成果について、研究会で報告し、さらなる批判的検討を加えた上で、成果を論文にまとめ、公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、当事者公開原則の保障の範囲を判断するための統一的な理論的考察枠組みを獲得する部分と、その前提として、個別の場面における当事者公開原則の適用態様を分析する部分からなる。 このうち、当該年度には、個々の適用場面をめぐる先行研究の整理と分析を行い、その成果を取りまとめた論文を公表する計画であったのに対して、論文の公表まで進めることができなかった。 理由としては、取り上げた3つの個別の場面が、相互に高い類似性を示したため、個別問題の分析の段階で、予定よりも深く、統一的な考察に踏み込んだことが挙げられる。 すなわち、当初の予定では、3つの個別の場面を独立のものとして扱い、個々に整理することだけを目標としていたが、構造の類似性が次第に明らかになったため、最終目標である理論的枠組みをより強く意識した分析を行う必要があると判断した。そこで、理論的考察の基礎となるドイツ民事訴訟法との比較検討を、必要な限りで前倒しで行ったが、このために、ドイツ語文献の収集、整理、分析および考察が不可欠だったため、結果的に予定よりも多くの時間を必要とした。
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Strategy for Future Research Activity |
個別問題の検討部分については、すでに成果を論文にまとめているので、研究会で報告したのち、論文を『熊本法学』に発表する(2020年7月)。 上記およびこれまでのドイツ民事訴訟法との比較研究を基礎として、統一的な基準を獲得するため考察を進める。考察内容について研究会で報告し、批判的検討を加えた上で、成果を論文にまとめ、『熊本法学』に発表する(2021年3月)。 1本目の論文のためにより多くの時間を充てることになるが、上の「現在までの進捗状況」で述べた通り、個別問題の検討のために、すでに、統一的な考察枠組みを意識したドイツ法との比較検討を行っている部分があること、および、必要な邦語文献およびドイツ語文献の収集がほとんど済んでいることから、2本目の論文に成果をまとめるための時間は、十分に確保できると考えられる。 なお、現在、研究会が相次いで中止になっており、報告の機会が確保できるかどうかに懸念があるため、民事証拠法やドイツ民事訴訟法の専門家に、オンライン面会を申し込み、考察方法等について助言を受け、また、成果について批判的検討を行う機会を確保できるよう、準備を進めている。
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Causes of Carryover |
1、図書の購入費、2、研究会出席のための旅費、および、3、論文公表にかかる諸費用(抜刷印刷代、抜刷送付のための郵送費など)について、それぞれ以下の理由から次年度使用額が生じたが、次の通り、2020年度請求分と合わせて、2020年度に使用する予定である。 1、ドイツ語のコンメンタールのいくつかが発売延期となったため、次年度使用額が生じた。これらは順次発売されているため、当該年度に使用されなかった研究費を、そのまま次年度に使用する予定である。2020年度請求分は、2020年度に購入する計画であった図書の購入のために使用する予定である。 2、2月および3月に開催予定であった研究会が、新型肺炎のため中止となり、交通費が必要なくなったため、結果的に、使用額が予定より少なくなった。2月および3月の研究会の多くは、開催頻度が年に1回を下回る、比較的規模の大きいもので、中止ではなく延期とされているものも多いので、次年度に開催される場合には、当該年度に使用しなかった研究費を、参加の際の旅費に充てる予定である。2020年度請求分は、2020年度に開催される研究会への出席のために使用する予定である。 3、1本目の論文の公表が遅れているため、論文公表に際してかかる費用が未使用となっているが、次年度に公表する際、使用する予定である。2020年度請求分は、2本目の論文の公表の際の費用として使用する予定である。
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