2020 Fiscal Year Annual Research Report
現代社会型犯罪における機能的考察に基づく故意概念の再構成
Project/Area Number |
19K23161
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小池 直希 早稲田大学, 法学学術院, 助手 (70844067)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 故意論 / 錯誤論 / 現代社会型犯罪 |
Outline of Annual Research Achievements |
〔2020年度の研究実績〕 本年度は、前年度の研究成果を踏まえ、各犯罪類型に共通する故意の一般理論の探究を行った。従来の通説は、故意責任の実体をいわゆる「故意の提訴機能」に求めてきたが、分析の結果、同基準は日独刑法学において様々な批判にさらされており、とりわけ、犯罪類型ごとに異なる不法の量を責任に反映させるという故意の機能(故意の不法媒介機能)を適切に表現できていない点が致命的であることが明らかとなった。 そこで、本研究では、「故意の提訴機能」という基準を放棄し、より単純に故意責任の実体を「法益侵害的心情」と定義すべきと結論づけた。同基準は、理論的に正当であるのみならず、故意の内容を規範的に捉えなおす必要がないことから、現代社会型犯罪への対応が容易となるという、実務上の実益も有する。たとえば、行政犯における無許可営業の認識が問題となった最判平成元年7月18日(刑集43巻7号752頁[公衆浴場無許可営業事件])における故意阻却を、簡明に説明することが可能となる。 以上の研究成果は、その前半が早稲田法学96巻2号に掲載されており、その後半は、同・96巻3号に掲載予定である。 〔研究期間全体の成果〕 現代社会型犯罪における故意に着目した判例分析からスタートし、最終的に故意責任の実体まで探究するという本研究の当初の目標は、おおむね達せられた。本研究全体を通じて、複雑化する現代社会における法規制のもとでの故意責任の在り方を問い直すことができたように思われる。なお、2020年度に早稲田大学に提出した博士学位論文「故意責任の理論構造と故意の認識対象論」にも、本研究の成果が反映されている。 他方、積み残した課題もないわけではない。特別刑法犯の故意について、研究期間中に分析したうちの一部は、現時点で執筆・公表に至っていない。同成果については、今後大学紀要等に速やかに投稿予定である。
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