2022 Fiscal Year Annual Research Report
ムスリム移住者との共生:国際人権法から見たデンマーク新政策の事例
Project/Area Number |
19K23166
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Research Institution | Osaka Jogakuin College |
Principal Investigator |
高橋 宗瑠 大阪女学院大学, 国際・英語学部, 教授 (40844600)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 国際人権法 / ムスリム / 人種差別 / デンマーク / 多文化共生 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度からの繰越が21549円と少額であり、文献を数冊購入することに充てた。予算の支出の必要のない、インターネットを通じた実務家や研究者とのやりとりやオンラインでの学会発表などを行った。
2021年度後半に提訴された、コペンハーゲンの「ゲットー」地区住民による強制立ち退きさしどめを求める訴訟が上級裁判所によって、欧州司法裁判所(European Court of Justice: ECJ)に上訴されることが確定した。その争点は、ゲットー政策が欧州連合の執行機関である欧州委員会が2000年に発行した「平等に関する指令」に反しているかであり、EUでなく欧州理事会の枠組みの条約である欧州人権条約(European Convention of Human Rights: ECHR)は本件の根拠になっていない。実施報告書執筆現在まだ判決が発表されていないが、国際人権基準がEU司令の根拠になっており、ゲットー政策が国際人権基準に違反していることは国連の複数の特別報告者や条約機関が指摘している通りである。万が一ゲットー政策がEU法に違反しないということになれば、まず間違いなくECHRを根拠に欧州人権裁判所(European Court of Human Rights)への提訴が予想される。上訴に伴う人権団体の意見書や裁判所の判決文などの資料を全て入手し、熟読した。
2022年秋にデンマークで総選挙が行われ、ムスリム排斥などを前面に出していたDanish People’s Party(DPP)がかなり後退する結果となった。しかし以前は「極右」と見られていたDPPの政策が主流政党に横取りされる形となっており、ゲットー政策を始めとするムスリムに対して差別的な方針は決してなくなることはなさそうである。なおスウエーデンもデンマークのゲットー政策に類似した政策を検討しているようであり、ヨーロッパの動向から目が離せない。
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