2019 Fiscal Year Research-status Report
Hobbes's Idea of Pluralistic Political System
Project/Area Number |
19K23178
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
上田 悠久 早稲田大学, 政治経済学術院, 助教 (70844546)
|
Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
|
Keywords | ホッブズ / 法の支配 / 宗教 / 助言 / 君主制 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、イングランド君主制下における「ふさわしい助言者」をめぐる論争に対するホッブズの応答を扱った、査読論文「ホッブズは「助言者」であったのか : 政治をめぐる同時代人との論争」が公刊された。次にホッブズの法論に焦点をあててたペーパーを執筆し、学会において口頭報告を行った(「ホッブズの法論と主権論ー裁判官の位置づけをめぐって」、日本政治学会研究大会、2019年10月)。 法を主権者の命令と理解し、法の支配を求める当時の法律家を批判したホッブズが、実は裁判官による法の弾力的運用を容認するなど、法の支配に親和的態度をとっているとの解釈が近年出されている。そこで当該ペーパーではこの説を踏まえてホッブズの法論を検討した結果、法律家と裁判官の明確な区別、そして彼の大きな主張である国家の安全が法論においては衡平equity概念に凝縮されていることが明らかになった。また、ホッブズの政治学における学問的方法論に関して、アリストテレス研究者の協力も得ながら、アリストテレスの哲学的方法論の継承という視点から検討を行った。この結果、幾何学的な方法論に拘泥したと言われるホッブズが、学問的知識の基礎として経験的知識を据えていた可能性、そしてそれがアリストテレス以来続く方法論に則ったものであることが明らかになってきた。なおこのテーマについては国際的発信を目指して英語で論文を執筆している。さらに、ホッブズの宗教論に関して、彼より一世紀後の哲学者デイヴィッド・ヒュームの宗教論との比較を行った結果、両者が哲学と歴史の両面による宗教批判を展開していることが浮き彫りになった。こうしたホッブズの法論、哲学、宗教論を、ホッブズの助言者に関する議論から包括的に捉え、彼の君主制社会像を捉えるべく、単著の執筆も進めることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究は進展しているものの、新規担当科目の授業準備に想定以上のエフォートを費やしたため、当初予定していた研究計画を大幅に見直す必要に迫られた。まず国内学術誌に査読論文が掲載され、学会発表も実施し、そして単著出版にむけた準備を進めることができた。他の研究者との対話の中で、これまで進めてきたホッブズ研究を他の思想家と比較するヒントも得ることができ、比較研究に本格的に取り組み始めることができた。一方で英語論文を含めた論文執筆計画には影響が生じ、原稿が見込んでいたほどには出来上がらず、学会発表でのペーパーをもとに学会誌に投稿した論文もリジェクトされてしまった。研究に関する知見を得るべく計画していた、国内外の学会への参加も、まとまった日数を確保できず行うことができなかった。さらに新型コロナウィルス感染症の蔓延により、発表を予定していた研究会がキャンセルされたことで発表機会を逸し、海外渡航が困難になったことで海外での調査研究出張も断念せざるを得なかった。春期休業中に予定していた論文の執筆にも、新年度に向けたイレギュラーな対応のため、更なる遅れが生じている。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず2020年10月開催予定の社会思想史学会において、ホッブズとヒュームの宗教論に関する研究発表を行うことが決まった。この報告は、啓蒙思想とマナーズ論の観点から両者の比較検討を行うものであるが、この比較によりホッブズの宗教論の全体像を君主制社会論との関連において把握し、かつホッブズにおける哲学と歴史の関係性と学問方法論との関係について解明が進むことを期待している。またこれに関連して、ホッブズの聖職者批判と君主制社会論との関係について英語論文を執筆するという当初計画を遂行するべく、執筆を進めていきたい。 アリストテレスとの方法論比較については、アリストテレス専門家とのディスカッションも重ねながら、今年度中に英語論文を完成させたい。また当時の歴史的文脈(とくに政治史)におけるホッブズの君主制社会論の位置づけについても、可能であれば英語論文化したいと考えているが、同時進行で進めている他の研究の実施状況を見ながら検討していきたい。なおこれまで言及した英語論文については、国内外の学会および研究会での発表、そして海外ジャーナルへの投稿を進めていきたい。 最後に、単著の出版について2020年度中に行う目処が立ったので、夏季休業期間中の脱稿を目指して執筆を進めていきたい。この著書においては、ホッブズの君主制社会論についてのこれまでの研究成果を盛り込む予定である。 ただし新型コロナウィルス感染症の収束が見えない現段階では、予定していた海外出張が実施できるか不透明である。さらに授業のオンライン化への対応などにより、研究に専念できる状況とは必ずしもいえないが、2020年も研究成果を出せるよう研究を実施していきたい。
|
Causes of Carryover |
2019年度は、新規担当科目の授業準備に想定以上のエフォートを費やさざるを得ず、ヨーロッパ地域への学会参加および調査研究、そして国内の学会参加を予定していたが実施できなかった。ヨーロッパ研究出張は春季休業中への繰延を検討していたが、新型コロナウィルス感染症蔓延による政府からの海外渡航の自粛要請等により断念せざるを得なかった。そのため渡航費、宿泊費などの予算を執行せずに終わったため、次年度繰越金が多額となった。 2020年度も、海外渡航を当分自粛するよう所属機関から申し渡されており、予定していた2度の海外出張を実施できる見込みが立っていない。ただしその他の研究計画については実施できると考えており、図書の購入、英文校正費用などは予定通り使いたい。なお研究室の使用を極力控え自宅でのテレワークを推進するよう所属機関から要請されているが、研究遂行に必要な資料や機材が自宅に揃ってはいないため、研究室にある資料や機材との重複を避けつつ、必要に応じて購入することを考えている。
|