2020 Fiscal Year Research-status Report
Hobbes's Idea of Pluralistic Political System
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19K23178
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
上田 悠久 茨城大学, 人文社会科学部, 講師 (70844546)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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Keywords | ホッブズ / ヒューム / マナーズ / 助言 / 統治 / 多元性 / 宗教 / 政治学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はホッブズの議論をよりよく理解するために他の思想家との比較を行うと共に、彼が提示しようとした多元的政治体制論の全体像をまとめることを目指した。まずデイヴィッド・ヒュームの宗教論とホッブズの宗教論を、manners(生活様式、習俗)をキーワードに比較し、社会における紐帯の形成と発展について彼らが政治と哲学の両面から検討を行ったことを見いだした。この成果は2020年10月に社会思想史学会研究大会において発表した。次に前年度に検討したホッブズの法論や方法論を含めた、これまでの研究をまとめ、単著『〈助言者〉ホッブズの政治学』として上梓した。本書において、ホッブズを一元的かつ絶対的な権力の擁護者とするこれまでの見方に留保をつけることを試みた。ホッブズは、主権を損なう恐れのある自律的な中間団体を単に解体するのではなく、既存の政治アクターを主権者の下に再編し、様々なアクターが活躍し主権者による統治を補佐する、多元的ともいえる政治体制を構築したことを、助言counselをキーワードに明らかにした。そしてホッブズの政治学が近代的学知に基づくとの見方に対しても、歴史あるいは経験知が彼の政治学において重要な役割を果たしていたことを示し、彼の政治体制についての見方が現実と遊離したものではなく、さりとて単なる観察に基づく現状追認ではない哲学的見地に基づいたものであることを示し、ホッブズの政治学がもつ重層的構造を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍により海外渡航が難しくなり、リサーチのための海外出張は断念した。またオンライン授業化に伴う準備に相当の時間を割くことになり、緊急事態宣言に伴う研究室や図書館の利用制限も発生し、さらに2020年10月には新しい勤務先に転じることになったため、研究に専念できる状況ではなくなり、当初の計画を大幅に変更せざるを得なくなった。そうしたなかでも既に決まっていた国内の学会発表、および単著の出版は予定通り実行することが出来たが、ホッブズに関する英語論文の執筆は後回しにせざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍により海外出張は依然として容易ではなく、国内の研究会や打ち合わせなどもオンライン開催が主となったため、勤務先での活動を主として研究を進めていきたい。ただし新しい勤務先は本研究の遂行にかんして必ずしも十分なリソースが揃っているとは言えないため、東京の図書館への出張などを実施したい。残り1年間を使い、まずはホッブズとヒュームに関する研究を日本語論文としてまとめていきたい。そしてホッブズの教会論や政治論に関する英語論文の執筆を進め、海外のジャーナルへの投稿を目指すと共に、ホッブズの方法論の検討についても、引き続きアリストテレス研究者の協力も得ながら英語論文として結実させたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍と転任が重なり、当初の研究計画通りに進めることが出来なかった。特に海外を含めた移動制限にともない、予定していた旅費の支出がなかった。今後もコロナ禍により海外渡航は困難であると考えられるため、予定していた旅費の一部は東京出張などのための費用として使用し、残りはホッブズや周辺思想家にかんする図書の購入や、英語論文の投稿に関係する費用として用いたい。
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