2022 Fiscal Year Annual Research Report
タイの「自主外交」の歴史的・文化的検討―「脅威」と「親戚」の間で苦悩する対中認識
Project/Area Number |
19K23179
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
タンシンマンコン パッタジット 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 講師(任期付) (10844136)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | タイ外交 / 対外認識 / 歴史認識 / 竹の外交 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1960 年代から 2010 年代までの、歴代の指導者、軍部、メディア、 知識人、財界人などの意見を通して、タイ社会における多様な中国認識を追跡することで、その変遷をもたらした要因と中国認識の特徴を明らかにし、対外政策の形成にどのように影響したのかを究明することである。2022年度に筆者が「和解における「人間」の回復―タイ中・タイ日関係にみる「妥協」の役割―」という論文を発表した(劉傑編『和解学叢書5=歴史家ネットワーク』明石書店)。また、筆者は修士論文と博士論文の成果を活かしつつ、外交における認識の役割を再検討し、過去4年間の研究成果を『タイ外交の論理:竹の外交を脱出して』(仮)という単著にまとめ、出版の準備を進めた。 この単著は博士論文の一部を活用し、博士論文の構想から展開したものだが、その4割以上の内容は新たに執筆したものである。本書は、単に中国認識を語るのではなく、帝国主義時代に脅威として見なされた英仏、第二次世界大戦中に同盟を結んだ日本との関係を歴史背景として議論に組み込んだ。そして戦後、軍事同盟を結んだ米国、多額の経済援助を与えた日本、1980年代にタイ領を侵略したベトナムに対する外交と対外認識も視野に入れ、時代を生きた人々の認識からボトムアップで外交史を描きなおすことにした。従来タイの外交を語るときに暗黙知となっていた「風にしなう竹」という外交言説に反論しながら、タイの例外主義という前提から脱却し、新たな「小国意識」という比較可能な視点でタイ外交史を読み直すことを試みた。タイの外交と対外認識の変化と不変、意識構造のパターン、現在起きている現象と歴史から残った負の遺産とのつながりを分析することにより、本の学術的価値はさらに高まり、本書に関心を持つ読者層も拡大できると考えている。
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