2020 Fiscal Year Research-status Report
共同資源利用ゲームにおけるプレイヤーの費用負担感の選好進化モデル分析
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19K23198
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Research Institution | Josai University |
Principal Investigator |
宮下 春樹 城西大学, 経済学部, 助教 (90848459)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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Keywords | 共有地の悲劇 / CPRゲーム / 間接進化アプローチ / 進化ゲーム理論 / 対戦プレイヤー人数の不確実 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、CPRゲーム(共同利用資源ゲーム)のプレイヤーが費用負担感を持つ場合に共同利用資源の過剰消費が抑制されるかどうかに注目して研究を進めた。 個人が共同利用資源を過剰消費することにより社会的な損失が生じることは、共有地の悲劇と呼ばれている。本研究はDutta (1999)に準拠する形で2人プレイヤーからなる2ステージの共同利用資源ゲームを定式化した。Dutta (1999)は、第1ステージでプレイヤーが共有資源を消費することにより利得を得るとしている。また、第2ステージにおいて残りの資源を平等に分け、それを消費することで利得を得るとしている。プレイヤーの総利得関数は、これらの利得の合計となる。 Dutta (1999)と異なり、本研究では、プレイヤーたちは第1ステージで資源を消費するために費用を負担すると仮定した。また、第2ステージにおけるプレイヤーの利得を第1ステージの残り資源の分割量と定義して分析を進めた。間接進化アプローチを適用したところ、進化的安定性を持つ費用負担感を解析的に導出できるかどうかは、利得関数に依存することが見いだされた。本研究では、進化的安定性を持つ費用負担感が一意に存在することが証明された。この費用負担感は、客観的な限界費用の水準を下回ることが示された。また、プレイヤーの人数が大きい場合、この費用負担感の下での均衡消費量は小さくなることが示された。さらに、進化的安定性を持つ費用負担感の下での総消費量と各プレイヤーが客観的な限界費用を持つ場合のパレート最適な総消費量を比較した。その結果、プレイヤーの人数の大きさによらず、共有地の悲劇が起きることが判明した。その直観的な理由は、進化的安定性を持つ費用負担感は、客観的な限界費用を下回るため、プレイヤーたちは資源の減少に対して楽観的になり、消費量を大きくするためだと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度は2人以上のプレイヤーからなるCPRゲームのプレイヤー集団に定着する費用負担感を導出した。しかし、今年度の研究においてその均衡費用負担感が一意的に存在することを証明する必要があることが判明した。この点を考慮し、Dutta (1999)に準拠する形で2人の対戦プレイヤーからなるCPRゲームを新たに定式化した。その結果、プレイヤー集団に定着する費用負担感の導出とその存在の一意性の証明に成功した。2021年5月現在、本研究成果の原稿を学会誌に投稿中である。ただし、本研究には、以下の3つの課題が残っており、研究計画と比べ若干遅れている。まず、Dutta (1999)が定式化したようにプレイヤーの利得関数が2ステージで変化しないと想定した場合にも均衡費用負担感を導出できるかどうかを検討する必要がある。次にn人の対戦プレイヤーがCPRゲームをプレイする場合の均衡費用負担感の分析が可能であるかどうかを検討する必要がある。また、今年度の研究成果の経済学上のインプリケーションについて現実社会の事例を交えながら説明する必要があると考えている。今年度の研究を通して、プレイヤーの利得関数を二次関数として与えることにより、数学的な一般性は損なわれるものの均衡費用負担感の導出は容易になることが見いだされた。そこで、今後は、各ステージにおける各プレイヤーの利得関数を二次関数に特定化して分析を進める。対戦プレイヤー人数をn人と想定することにより、プレイヤー集団に定着する費用負担感の導出を試みる。このようにモデルを簡単化することにより、費用負担感の存在の一意性を示すことは容易になる。残る課題に対しては、今年度内に経済学のセミナーを開催し、経済学を専門とする研究者と議論を重ねつつ、論文の作成に当たる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
Dutta (1999)に準拠し、2ステージのCPRゲームを構築する。ただし、分析を簡単にするため、各ステージにおけるプレイヤーの利得関数を二次関数に特定化する。その上で間接進化アプローチを適用することにより、n人の対戦プレイヤーからなるCPRゲームのプレイヤー集団に定着する費用負担感の導出を試みる。その上で2021年度内の論文作成と学術誌への投稿を目指す。 今年度の研究を通してCPRゲームには、プレイヤーが共有資源を採掘する状況を分析したOstrom et al. (1994)タイプとプレイヤーが共有資源を平等に分割する状況を分析したDutta (1999)タイプがあることが見いだされた。本研究の今後の課題として、Ostrom et al. (1994)タイプのCPRゲームにプレイヤーの費用負担感を加えた場合に共有地の悲劇が回避されるかどうかを確かめることがあげられる。また、今年度の研究を通してOstrom et al. (1994)のCPRゲームにおける対戦プレイヤーの人数がプレイヤー間の共有知識となっている場合の均衡投資額は、対戦プレイヤーの人数が不確実な場合の均衡投資額を上回ることが判明した。これは、共同利用資源の生産関数が二次関数で与えられており、対戦プレイヤー人数の選択確率がポアソン分布にしたがう場合の限定的な結果ではある。しかしながら、対戦プレイヤーの人数が不確実な場合、共有地の悲劇が回避される可能性を示唆している。2021年5月現在、この派生的な研究成果の論文作成を進めている。この結果を踏まえ、本研究は、対戦プレイヤーの人数に依存して共同利用資源が消失するモデルへの拡張を展望している。対戦プレイヤー人数の不確実性がプレイヤーの費用負担感に与える影響について分析することも今後の課題である。
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Causes of Carryover |
進化的安定性をもつ費用負担感が一意に存在するようなCPRゲームの定式化に期間を要したため、研究計画と比べ、論文作成に遅れが生じている。また、2021年5月現在、論文の原稿を学会誌に投稿中であるが、再度校正が必要になる見込みである。そこで、同年7月までに筑波大学で経済学の研究会を実施し、経済学を専門とする研究者たちと現在投稿中の論文の経済学上のインプリケーションについて検討する。同時にn人の対戦プレイヤーからなるCPRゲームのプレイヤー集団に定着する費用負担感の分析を引き続き進める。この分析は、同年6月までに実施し、同年8月に学術誌への投稿を目指す。また、2021年5月現在、本研究の派生的な研究成果を論文として作成している。同研究成果の学術誌への投稿は、2021年7月を予定している。2021年12月を目途にこれらの研究成果の学会誌掲載を目指す。以上の理由により、本研究は2021年度使用額を必要とするに至った。
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