2021 Fiscal Year Research-status Report
共同資源利用ゲームにおけるプレイヤーの費用負担感の選好進化モデル分析
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19K23198
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Research Institution | Josai University |
Principal Investigator |
宮下 春樹 城西大学, 経済学部, 助教 (90848459)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 共同利用資源(CPR)ゲーム / 間接進化アプローチ / 共有地(コモンズ)の悲劇 / プレイヤーの対戦人数 / 対戦人数の不確実性 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の研究では、共同利用資源ゲームのプレイヤー集団に定着する費用負担感の存在の一意性を示すために数学的条件の簡単化が課題となっていた。そこで、共同利用資源の総利用量は、具体的な生産関数によって与えられると想定し、分析を進めた。Atzenhoffer (2010)の定式化した共同利用資源ゲームの利得関数を使い、均衡労働量を導出した。その後、これをWärneryd (2012)の採用した均衡条件に適用することで進化的安定性を持つ費用負担感の導出を行った。その結果、次のことを示した:1.生産関数のパラメーターに依存する形で進化的安定性を持つ費用負担感と均衡労働量がそれぞれ同時に存在する。2.プレイヤー集団の人数が大きくなると進化的安定性を持つ限界費用は大きくなり、客観的な費用に近づく。3. プレイヤー集団の人数が大きくなると進化的安定性を持つ限界費用の下での均衡労働量は小さくなる。3.進化的安定性を持つ限界費用の下でのプレイヤーの均衡総労働量は、プレイヤーが客観的な限界費用を持つ場合のナッシュ均衡の水準を上回る。つまり、プレイヤーが有限人数の進化ゲームの中で生成された主観的な限界費用を持つ場合、彼らが客観的な限界費用を持つ場合と比べて深刻な共有地の悲劇が起きる。2022年3月に上記の研究成果を大阪大学国際公共政策研究科の『国際公共政策研究』に発表した。また、Ostrom et.al(1994)およびKahana and Klunover (2015)に準拠する形で対戦人数の不確実な共同利用資源ゲームを定式化し、その均衡を分析した。その結果、対戦人数の不確実性が共有地の悲劇を回避する可能性があることを見出した。2021年12月にこの研究成果を日本リスク学会の『リスク学研究』に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度はDutta (1999)の導入した共同利用資源ゲームに準拠する形で均衡総労働を導出した。しかし、Dutta (1999)のモデルの設定上、プレイヤーが費用負担感を持つという仮定の正当化は難しく、戦略的依存関係を保った形で効用関数の定式化を進めることも難しいことが判明した。そこで、Atzenhoffer (2010)の定式化した共同利用資源ゲームの利得関数にプレイヤーの限界費用のパラメーターを加え、モデルの設定に無理のないような形で再び定式化を試みた。前年度は、2人以上のプレイヤーが共同利用資源ゲームをプレイする場合の均衡費用負担感の導出も課題となっていた。そこで、Wärneryd (2012)の採用した均衡条件を用いて分析を進めた。また、その均衡条件の意味についても再度検討した。これは、突然変異体の選好を持つ集団に既存の選好の個人が侵入した場合に既存の選好が拡大するという安定条件(Smith and Price, 1973およびSchaffer, 1988)であることが分かった。プレイヤーの資源の総利用量の特徴を示した生産関数は、二次関数に特定化して分析を進めた。その結果、2人以上のプレイヤーが対戦する共同利用資源ゲームの均衡限界費用と均衡総労働量の導出に成功した。また、各プレイヤーが客観的な限界費用を持つとき、プレイヤーの対戦人数の増加がより深刻な共有地の悲劇が起きるという結果を導いた。本研究の目的は、人間社会に定着する費用負担感とプレイヤーの対戦人数の関係を確かめることと、それらの費用負担感が存在することにより、共有地の悲劇を回避できるかどうかを確かめることである。概ねこれらの目的に沿う結果を示すことができた。さらに本研究の結果は、レント・シーキングコンテストのプレイヤー集団に定着する限界費用を分析したWärneryd (2012)と同じになることを確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究を通じてプレイヤーの対戦人数の増加が共有地の悲劇の深刻化をもたらすことが示唆された。その一方、対戦人数の不確実性を伴う共同利用資源ゲームにおいては、対戦人数の不確実性が共有地の悲劇を回避する可能性があることを見出した。今後の研究課題は、対戦人数の不確実性が進化的安定性を持つ限界費用の下での均衡総労働量に与える影響を確かめることである。対戦人数がプレイヤー間の共有知識となっていない場合、プレイヤーたちが資源の利用量を減らす可能性が高まる。すると彼らは資源の利用水準を下げるため、共有地の悲劇が回避されるかもしれない。そこで、2022年度に発表した選好進化モデルに対戦人数の不確実性を加える形で拡張を試みたい。Peña and Nöldeke (2018)は、プレイヤーの対戦人数に不確実性を伴う動学モデルを導入している。プレイヤー人数の大きさが囚人のジレンマゲームの均衡に与える影響を分析している。協力をとるプレイヤーと非協力をとるプレイヤーからなる安定的な定常点が2つ存在することを見出している。対戦人数が増加することにより、定常点における協力プレイヤーの割合が減少することを示している。その一方、協力プレイヤーの割合の多い定常点の吸収流域が大きくなることを示している。選好進化アプローチを動学モデルに拡張した研究にAstrid (2013)がある。ムカデゲームのプレイヤー集団に定着する利他選好の安定性を分析している。自己確証均衡の下では、利他選好が利己選好よりも進化の過程で有利になることを示している。これらの先行研究を参考にし、対戦人数の不確実性を伴う共同使用資源ゲームを動学モデルとして構築する。プレイヤー集団は、費用負担感が大きいタイプと小さいタイプからなると想定する。定常点における均衡総労働を導出し、対戦人数の不確実性が共有地の悲劇を回避するかどうかを検討したい。
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Causes of Carryover |
これまでの研究では、共同利用資源ゲームのプレイヤーの対戦人数を2人以上と想定することで分析を進めてきた。しかしながら、プレイヤーの対戦人数が不確実性な場合に共有地の悲劇を回避できる可能性が示唆された。そこで、対戦人数の不確実性を伴う選好進化モデルの構築を試みることにした。使用計画の詳細は次のとおりである:2022年8月までにAstrid (2013)に準拠する形で展開型の情報不完備な共同利用資源ゲームを定式化する。プレイヤーのタイプは、費用負担感が大きいタイプと小さいタイプからなると想定して分析を進める。その後、Peña and Nöldeke (2018)を参考にし、モデルを動学に拡張する。定常点における均衡総労働を導出し、対戦人数の不確実性が共有地の悲劇を回避するかどうかを検討する。その後、2022年12月を目途に論文の作成に当たる予定である。そこで、次年度使用額の一部を論文投稿経費に充当する。同時に2022年の6月から10月の期間に筑波大学および城西大学の研究者と合同で「限定合理性の研究セミナー」を開催する予定である。そこでの報告の準備に次年度使用額の一部を使用する予定である。また、以上の研究を遂行する上での学会費も必要となる。上記の理由により、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(4 results)