2019 Fiscal Year Research-status Report
一般技能教育の拡大と技術進歩、経済成長の関係についてのマクロ経済分析
Project/Area Number |
19K23213
|
Research Institution | Fukuyama University |
Principal Investigator |
田中 征史 福山大学, 経済学部, 講師 (40847828)
|
Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
|
Keywords | General skills / Specific skills / Uncertainty / Economic Growth |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、一般技能と特殊技能という2タイプのスキルに対する家計の技能選択が経済成長に及ぼす影響について分析している。一般技能とは幅広い職種や企業で使用できる汎用性が高い労働技能であるのに対して、特殊技能とはある特定の職種や企業でのみ使用が可能で、その特定の職種や企業内では高い生産性を発揮する労働技能として定義されている。そして、この2タイプの労働技能の蓄積の違いが、マクロ経済の労働の流動性の違いを生み出し、その結果、経済成長に与える影響の違いについて分析している。
本研究の目標は、上記のような汎用性と生産性のトレードオフにある2タイプの労働技能に対する家計の技能選択をモデル化し、それぞれの労働技能の習得に対する補助金(一般技能教育補助金と特殊技能教育補助金)が経済成長にどのような影響を与えるかを理論的に分析することであった。また、ヨーロッパ12か国のマクロデータを用いてカリブレーションを行い、補助金政策の効果をクロスカントリーで数量的に比較することも目的としていた。
上記目標は2019年10月までに大方達成することができた。マイクロデータの取得の制約により、部分的に分析をあきらめたものもあったが、当初目標としていたクロスカントリーでの政策効果の比較は論文内で明確に示すことができた。本研究は2019年に査読付き学術誌B.E. Journal of Macroeconomicsに投稿しており、2020年2月に同紙に掲載が採択された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究で目標としていた分析内容は申請当初から大方目途が立っており、また、カリブレーションに必要なデータの入手も既に終わっていたため、分析自体はスムーズに行うことができた。加えて、分析の更なる発展に着手すると同時に、上記査読付き学術誌に投稿しており、比較的短期間で改訂要求を受けることができた。このため、2019年度は主に学術誌からの改訂要求に沿った分析の発展のみに着手できたことも計画以上の進展が得られた理由である。 ただし、今後、別論文として、本研究に失業を組み込んだモデルを構築することも目標としており、こちらに関してはまだ着手に至っていない。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在、大阪市立大学の中村英樹氏と立正大学の中村勝克氏と進めている研究では、機械化と失業との関係を分析するモデルを構築中である。両氏との共同研究では大方の分析結果は示せており、今後はこれらをディスカッションペーパーとしてまとめ、学術誌に投稿する予定である。
また、更なる目標として、現在分析を遂行中の理論モデルに対して一般技能と特殊技能の技能選択をモデル化し、機械化が一般技能労働者と特殊技能労働者のグループ間の失業率の違いに与える影響に関して分析したいとも考えている。ヨーロッパの多くの国で観察されるエビデンスとして、就労世代のうち比較的若年層では一般技能労働者よりも特殊技能労働者の方が失業率が低いのに対して、年齢が高くなるにつれて一般技能労働者の方が失業率が低下していく傾向にある。これは、機械化を中心とした産業構造の長期的な変化が、一般技能労働者よりも特殊技能労働者の雇用により大きな被害を与えることを意味している。こういった事実に沿った理論モデルを構築し、数量分析等に発展させていくことが今後の目標となる。
|
Causes of Carryover |
最大の理由は、申請当初予定していたMatlabやStateなどのソフトウェアの購入が2019年度中には必要なくなったため、これらの購入費が発生しなかったことにある。当初、2019年度には更なるカリブレーション分析の発展が必要になるかと想定していたが、学術誌からの改訂要求にこれがなかったため、ソフトウェアを急ぐ必要がなくなった。 ただし、今後の分析にはこれらのソフトウェアが必要となるため、2020年度の予算で支出予定である。
|