2019 Fiscal Year Research-status Report
不完全情報のもとでの期待形成メカニズムの研究:金融政策分析への応用
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19K23219
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 涼 東京大学, 大学院公共政策学連携研究部・教育部, 特任教授 (20843692)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 不完全情報 / 不確実性 / インフレ動学 / インフレ期待 |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトは、不完全情報下において、経済の長期的な定常状態に関する情報が逐次的にしか蓄積されない場合の経済主体の行動をモデル化し、マクロ経済変動(特にインフレ率の変動)の要因解明に取り組むことを目指している。令和元年度(平成31年度)における主な研究実績は以下の通り。 まず、経済状況に関するファンダメンタルズが不完全共有情報となっている独占的競争市場を想定し、「独占度・集中度が高い産業ほどインフレ率の慣性が高まる」ことを示す理論モデルを構築したうえで、実際に米国の産業ごとの卸売物価指数のデータを用いて、この仮説を検定したところ、統計的に有意な結果が得られた。こうした理論・実証、両面での分析結果を、6月に国際学会(Asian Meeting of Econometric Society 2019)で報告した。学会でのコメントをふまえ、その後、Social Science Research Network(SSRN)にワーキングペーパーの形で論文を公表した(研究論文1)。現在、この論文は国際学術誌に投稿済みであり、査読審査結果待ちの状況。 並行して、長期的なインフレ率(いわゆるトレンド・インフレ率)が確率的に変動することを許容した動学的一般均衡モデルの構築を進めた。この理論モデルを日本の長期時系列データに適用し、トレンドインフレ率の下方シフトが「レジーム・チェンジ」として統計的に検出されるかどうかを調べるため、推計プログラム(Rationality In Switching Environments: RISE)のカスタマイゼーションを開始した(研究論文2)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究成果としては、研究論文1については、国際学会での報告を経て、既に国際学術誌に投稿済みであり、研究開始初年度の成果として順調な進捗と評価できる。もっとも、査読結果によって今後の研究の改善余地は大幅に左右されるため、あくまで現時点での暫定的な判断。 一方、研究論文2については、年度末にかけて共著者とのやりとりをオンラインに移行するのに手間取ったこともあり、モデルの推計結果が得られる段階に到達できなかったため、若干遅れている。現状では、オンラインでの共同研究環境が概ね整ったため、遅れを取り戻しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、研究計画に沿って研究を進めるが、論文1については、査読審査結果に応じて柔軟に方針を変更することを想定している。論文2については、本年夏までにトレンドインフレ率のレジーム変化についての暫定的な推計結果を得、まずは年度内のセミナー等での報告を目指している。その後、複数の学会での報告を経て論文の投稿段階に進む見込み。
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