2019 Fiscal Year Research-status Report
地域文化の再構築を担う創造の場:教育研究機関の集積と連携による人材開発と知識共有
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19K23236
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
前田 厚子 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (50849049)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 革新と継承を担う創造の場 / 人材開発 / 知識共有 / 芸術系大学 / 専門技術研修所 / 美術館 / 工芸作家 / 地域文化産業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、地域を象徴する芸術文化の革新と継承を担う教育研究機関(芸術系大学「芸大」、美術館、専門技術研修所「専門校」)とそれらに帰属的な芸術家の社会連携で営む創造の場を動態分析することにより、創出される価値の最適化を解明することにある。このような価値は、多様性と専門性に富んだ人材・知識・教育研究の相乗性で育まれ、芸術家自身、作品資料、社会教育研究によって、組織内、組織間とそれらを取り巻く創造環境に知識移転される。これまでは京都と金沢の先駆例を検証したが、その理論化には更なる事例検証を必要とする。 その方法論は、知識創造モデル(野中ら,1996)の基礎概念を応用して、上述した教育研究機関と帰属的な工芸作家を対象に、多様な暗黙知の①共同化(社会連携研究)、②表出化(創作発表)、③連結化(作品資料の体系化)④内面化(付加価値の発信)の各場を担う組織内外の連携システムとそこから創出される価値を検証するものとする。 2019年度は、京都や金沢に各々近接する岐阜と富山の相当例に調査を拡張した。調査対象は、上述した①教育研究機関の社会連携システム、②教員・卒業生らである工芸作家のキャリア発達と①との関係性、③①から創出される価値の特定である。まず9月より富山事例の①②に関する文献調査を始めた。10月には富山市ガラス美術館、富山ガラス造形研究所、富山ガラス工房の見学と運営幹部のヒアリングを実行し、多くの情報資料を得た。また富山市公文書館や富山市埋蔵文化財センターでは、地域の伝統文化や伝統産業である薬瓶製造の変遷を調査した。多治見市の事例調査は、文献調査と資料収集を現地取材に先行して整理できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
昨年9月より富山市に所在する調査機関への訪問準備を本研究の初稼働として、10月上旬に現地調査を実行した。ところがその直後より、台風19号の浸水被害による生活再建及び新型コロナウィルス感染拡大による自粛要請が起因して、研究経費の大半を占める出張による現地調査と、7月に文化経済学会<日本>研究会で報告をしたものの雑誌論文や図書出版の活動が中断された。1月中旬以降、富山出張時に入手した資料を整理し、参考文献の閲覧や研究会「地域文化産業のSDGsを担う創造環境について」の開催準備といった研究活動を再開したが、政府と大学からの自粛要請により、東京と京都で開催予定であった当該研究会は本年度に延期となった。外出自粛が要請される3月には、中断していた雑誌論文の執筆を再開し投稿した。公文書館、芸大、専門校、美術館、作家工房、関連する文化イベントの訪問やそれらに関わる工芸作家らのヒアリングより情報収集することが主な研究計画であったが執行できない予期せぬ事態が重なり、このような自己評価となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、予期せぬ事情で訪問できなかった多治見市立陶磁器意匠研究所及び帰属的人材の国際陶磁器美濃(世界最大級の陶磁器国際公募展)を通じた行政、地場産業との社会連携システム及び帰属的な工芸作家のキャリアパスに関わる現地調査を富山市の上述した事例調査とともに執行する。また、昨年度3月より延期された研究会「地域文化産業のSDGsを担う創造環境」については、京都市と多治見市に所在する芸大や専門校と陶磁器産業推進組織との社会連携、及び富山市に所在する美術館、専門校、ガラス産業推進支援組織と東京藝術大学との社会連携に関する二件を主宰する。別途、昨年度より継続している雑誌論文の発表、所属する研究センターや学会における成果発表及び本研究の素地となる博士論文に基づく図書出版を達成したい。取り急ぎ、外出自粛要請が解除されて一段落する時期までに工芸作家数名のキャリアパス調査を行いたい。但し、教育現場における学外者の取材訪問及び工芸作家らが関わる展覧会やイベントの開催は中止されるリスクが大きいので、郵便やメイルによるヒアリングを対面の代替案とする。 本研究は、概要で言及した①~③の研究成果を指標として、上述した創造の場の形成過程と創出される多様な価値の波及効果を解明できれば、地域の伝統を象徴する芸術文化の人材開発と知識共有を持続的に担う創造環境の構造を理論化する一助になると考える。
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Causes of Carryover |
昨年9月より研究活動を開始したが、10月12日から1月中旬までは台風19号による自宅浸水によって研究活動が中断した。2月下旬からは自宅再建に加えてコロナ禍による様々な自粛要請によって、研究費用の大半を占める出張旅費と研究会開催費用が多分に未使用となったため次年度への繰り越しとなった。 教育研究機関の現場見学と帰属人材のヒアリング調査や、様々な工芸イベントの見学とそこで活動する工芸作家らのヒアリング調査を情報源に考察する研究方法なので、2020年度においても多分に影響はあろうが可能な限り遂行したい。もちろん既に構築されている人的ネットワークを活用して電子メールや郵便を代替案にする。
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