2019 Fiscal Year Research-status Report
犯罪や非行に関与した知的障害者に対する施策形成に関する歴史的研究
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19K23253
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
末松 惠 日本女子大学, 人間社会学部, 研究員 (90844704)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 更生保護の歴史 / 埼玉慈善会免囚保護院 / 仏教慈善事業 / 浦和監獄 / 官民協働 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、犯罪や非行に関与した知的障害者に対する施策や処遇の形成過程を解明することを目的として、(1)浦和監獄における「出獄人保護」事業の仕組みが形成されていく経緯及び背景を明らかにする、(2)「出獄人」中に存在した知的障害者の生活実態や保護にかかわる取り組みを把握・検討する、の二つの課題を設定して取り組んでいる。 今年度は主に(1)の課題に注力し、1)先行研究の検討、2)日本における「出獄人保護」事業の形成に関する研究、3)埼玉県の「出獄人保護」事業の形成過程に関する研究に取り組んだ。 1)の先行研究の検討では、当該テーマが、①更生保護の歴史研究、②仏教慈善事業史研究、③更生保護法制史研究の各分野において論究されていることがわかった。また、更生保護事業が、社会内処遇の形成という視点から進展が図られ、官民協働の取り組みとして発展してきたことを把握した。さらに、更生保護事業は、篤志家や宗教家による独自の取り組みとして推進されたという示唆を得た。 2)の日本における「出獄人保護」事業の形成過程に関する研究では、保護事業が民間組織に依拠しながら発展し、その嚆矢である静岡県出獄人保護会社は埼玉県の取り組みにも影響を与えていたことがわかった。 3)の埼玉県の「出獄人保護」事業の形成過程に関する研究では、埼玉慈善会の僧侶及び教誨師等によって事業が開始されたことがわかった。保護の方法は、当初、保護場への収容と授産が取り組まれたが、運営・保護成績ともに安定せず、その後、埼玉県議会による資金助成と浦和監獄及び県下2,000箇所の寺社による「出獄人」への自宅訪問・通信等によって状況は好転していったことが明らかになった。また、官民協働については、埼玉県における更生保護事業が、民における地域活動及び「出獄人」支援、官における事業管理と統制という役割分業を推進した実践モデルの端緒であると指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、犯罪や非行に関与した知的障害者に対する施策や処遇の形成過程を解明することを目的として、(1)浦和監獄における「出獄人保護」事業の仕組みが形成されていく経緯及び背景を明らかにする、(2)「出獄人」中に存在した知的障害者の生活実態や保護にかかわる取り組みを把握・検討する、の二つの課題を設定して取り組んでいる。 今年度は、主に(1)の課題に注力し、研究を進展させることができた(上記「研究実績の概要」にその内容を記した)。ただし、研究の対象は地域における保護事業を中心としており、監獄で展開されていた「出獄後」へ向けた取り組みについてはまだ「研究ノート」の段階である。 また、(2)の「出獄人」中に存在した知的障害者の生活実態や保護に関する研究は、感染症拡大の影響で資料収集に支障が生じ、作業を中断している状況である。本研究は歴史研究であるため、一次資料の収集がなによりも優先されるが、資料探索を予定していた県立熊谷図書館・埼玉県文書館等が相次いで閉鎖され、資料へのアプローチの機会を断たれていたからである。こうした状況が今後も続くようであれば、研究の遅れが予想され、研究方法の変更も考慮すべきであると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、浦和監獄の「出獄人」中に存在した知的障害者の生活実態や保護にかかわる取り組みに焦点を絞ってすすめていく(上記「研究実績の概要」中に述べた(2)の課題にあたる)。 浦和監獄では、明治期後半に知的障害者の存在が把握され、実業教育や治療・訓練など、出獄後へ向けた特別な処遇が実施されていた。本研究では、知的障害者の出獄後の処遇がいかなる目的の下でどのように策定されていたのか。それは当該事業においていかなる位置づけにあったのか等について考察する。また、埼玉県が推進する「出獄人保護」事業が、埼玉県議会・浦和監獄及び県下2,000に及ぶ寺社の連携によって推進されていたことをふまえ(上記「研究実績の概要」中に述べた(1)の研究成果による)、地域資源とのかかわり・官民協働の流れに着目しながら分析をすすめていく。 研究方法は、熊谷図書館・埼玉県文書館等における一次資料の収集が不可欠であるが、上にも記した通り、先般からの感染症の状況によっては資料探索がかなわないこともありうる。その際には、インターネットで閲覧しうる資料(『監獄協会雑誌』及び更生保護事業を扱った『輔成会叢書』などの専門誌)を用いて分析をすすめていく。
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Causes of Carryover |
感染症拡大の影響で、予定していた学会・研究会・資料探索・インタビュー調査等がすべて中止・延期となり、計上していた交通費等の諸費用は全額未行使のまま経過しているためである。また、そうした情勢下において、研究活動の規模が縮小されるに従い、消耗品や事務費等の使用も自ずと少なくなったと考えられる。 今期において公立図書館や文化施設が再開される動きとなれば、遅れを取り戻すべく積極的に調査研究費等に用いていきたい。
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