2021 Fiscal Year Research-status Report
犯罪や非行に関与した知的障害者に対する施策形成に関する歴史的研究
Project/Area Number |
19K23253
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
末松 惠 日本女子大学, 人間社会学部, 研究員 (90844704)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 少年行刑 / 浦和監獄川越分監 / 知的障害者 / 福祉的処遇 / 歴史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、犯罪や非行に関与した知的障害者に対する施策の形成過程を明らかにすることを目的とし、本年度は、日本で初めて独自の知的障害者処遇を展開した浦和監獄川越分監における取り組みの経緯をまとめるとともに、その後、川越少年刑務所・八王子少年刑務所へと引き継がれた実践の諸特徴とその背景について整理した。研究の結果、知的障害者が認識される契機となった事象は、監獄事業における幼年囚の成人囚からの分離であり、分離されることにより独立した幼年監が設置され、幼年者に対する保護と懲治・教育を重視した処遇方針が明確化さることによって、知的障害児の発見につながっていったことを明らかにした。また、明治大正期における知的障害者への処遇は、識別・分類・治療・訓練・教育といった実践的関心のもとで実施され、それが当時における最先端の科学的な知識や技術と結びついて、具体的な取組がなされていったことが分かった。処遇上に見出された福祉的な価値理念として、知的障害者に対する「国民」という視点、処遇における「個人」の把握、障害による困難状況の「社会」との関連認識、貧困状況における保護と養育の4点を提示した。さらに、少年監における知的障害者処遇の社会的意味に関し、戦前期の少年行刑は天皇制統治下における「国民統合」施策のもとにあり、知的障害者には選別的な対応をもって「社会適応性の恢復」が目指されたが、同時にこれが少年行刑の発展において不可避な事柄として推進されたことを指摘した。とりわけ八王子少年刑務所への心神耗弱者の分離は、国家的な意図による大規模な排除型処遇の源流として捉えられ、知的障害者は社会統治上「特殊」な者として排除されつつ「社会順応」を強いられるという矛盾のなかに存在していたことを指摘した。これらの研究成果を一冊の本にまとめ(著書名『少年行刑の歴史からみる知的障害者の萌芽』)刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、犯罪や非行に関与した知的障害者に対する施策や処遇の形成過程を解明することを目的とし、2021年度は浦和監獄川越分監を中心とした知的障害者処遇の歴史的展開過程を整理した。昨年、「今後の研究の推進方策」では、浦和監獄の「出獄人」中に存在した知的障害者の生活実態や保護にかかわる取り組みを明らかにすることを掲げたが、前述の整理において、知的障害者の非行や犯罪にかかわる環境的・社会的状況について一定程度明らかにすることができた。 また、明治・大正期の免囚保護事業における障害者への対応に関しては、司法保護事業の統括機関である輔成会の協議会記録及び『輔成会会報』などの諸資料から、当時、「不具廃疾の免囚者」への処遇問題が議題に上り、「労働不能力者釈放人」に関する調査(1929)が実施されていることを確認することができた。今後はさらに、輔成会における議論経過を明らかにするとともに各免囚保護団体における障害者への対応について検討していく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、引き続き、浦和監獄の「出獄人」中に存在した知的障害者の生活実態や保護にかかわる取り組みについて検討をすすめていくとともに、戦前期において、高齢や病気・障害などのために生活困難となった免囚者に対する保護が、いつごろ、どのような問題として取り上げられるようになり、その背景とはいかなるものであったのかを資料・文献から明らかにする。 具体的には、免囚保護事業の動静を伝える資料として、1916 (大正5)年頃までは監獄協会編纂による『監獄雑誌』等を主な分析対象とするが、保護会社の統括機関である財団法人輔成会が独自に雑誌編纂に携わるようになる1917 (大正6)年以降は、当該雑誌である『輔成会会報』を中心に経過を把握する。また、大谷派慈善協会による『救済』や教誨時論会が発行する『成人』など、当時の慈善団体が編纂・刊行する各種雑誌から免囚保護事業にかかわる史実を補う。また、検討の対象期間としては、別房留置制度において「虚弱者問題」が指摘されはじめる明治中期頃から、輔成会が主宰する事業者講習会等において「不具廃疾」の刑余者に関する議論が活発となる大正期を経て、「労働不能力者釈放人」の調査結果が公表され対応が具体化される昭和初頭頃までを予定している。
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Causes of Carryover |
コロナ感染症拡大の影響で、予定していた学会・研究会はすべてZOOMミーティングによる開催となったことに加え、資料探索・インタビュー調査等も見合わせる状況が続いた。これらの事情により、当初計上していた交通費等の諸費用は全額未執行のまま経過している。また、そうした情勢下において、研究活動の規模が縮小され、消耗品等の使用も自ずと少なくなった。 今年度は、公立図書館や文書館などの入場制限がやや解消され、資料閲覧の可能な施設も増えてきていることをふまえ、調査研究費等に積極的に用いていきたい。
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