2019 Fiscal Year Research-status Report
子どもを対象とする遺伝子検査のルールの変容―「リスクの医学」の観点からの考察
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19K23264
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
清水 怡然 (李怡然) 東京大学, 医科学研究所, 特任研究員 (20850366)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 遺伝情報 / ゲノム / 遺伝学的検査 / 子ども / 生命倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、子ども(小児・未成年者)の遺伝学的検査・ゲノム解析をめぐる、議論と論点の整理を行った。北米や欧州の文献を検討したところ、主として(1)診断・治療など子の利益に直結しない検査・解析の是非、(2)二次的所見の取り扱い、(3)子の意思確認やインフォームド・アセント取得の課題、といった論点が浮かび上がった。具体的には、小児期発症疾患の確定診断、成人期発症疾患の発症前診断、DTC(Direct-to-consumer)遺伝子検査、網羅的ゲノム解析(全ゲノム/エクソーム解析)、新生児マス・スクリーニング(newborn screening)等、解析目的や状況に応じて、実施の是非や同意取得、結果説明をめぐる議論の展開がみられた。 倫理的な議論に関しては、「子どもの最善の利益」(best interest of the child)、「開かれた未来への権利」(the right to an open future)、「家族にとっての利益」(benefit to the family)といった概念が重要であることがわかり、時代や状況に応じて、こうした概念がいかなる主張の正当化に援用されているかを検討した。 日本の一般市民の側がどのような態度を有しているかを把握するために、子どもの全ゲノム解析を希望する年齢や期待・懸念について、試行的に意識調査を実施した。解析するかどうかは子本人の意思決定を再重視すると回答した人と比較して、就学前に子の全ゲノム解析を希望すると回答した人では、子の病気の治療・予防・診断への期待が大きいことが明らかにされた。新たな局面として、全ゲノム解析等実行計画(2019年12月)が策定されたことから、医療(診療)だけでなく、研究の文脈での網羅的ゲノム解析に関するガイドラインや指針の動向を分析する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、基本的な文献の整理と議論の動向の把握に努め、おおむね当初の計画に沿った進捗状況となっている。ただし、個別の疾患領域ごとの学会ガイドラインや、海外から日本への影響を分析するには至っていない。次年度は、がんや難病など疾患領域ごとの差異、北米や欧州における議論がどこまで日本に波及しているかを含め、引き続き、資料収集と分析を進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の流行により、学会や関連会合等の中止・延期が続いていることから、研究計画の一部を見直し、アクセス可能な文献資料を用いた調査を中心に据えることとする。引き続き、国内外の文献のレビューを通じて、遺伝医療および生命倫理の専門家による議論をまとめるとともに、学会・関連団体のガイドラインや報告書等を用いて、疾患領域ごとの差異や、海外と比較した日本の状況を分析する。分析結果をまとめて論文を執筆し、学会誌に投稿することを目標とする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行により、当初参加を予定していた学術集会の中止が決定され、旅費・参加費等の支出が減少したためである。今般の事情を鑑みて、次年度においては、文献調査を中心に進めることから、欧文書籍の購入、文献の複写・印刷費、文献管理ソフトの購入、研究成果発表費用(学会誌投稿料)等に使用する計画である。
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