2019 Fiscal Year Research-status Report
Sociological study on community formation of freelance workers: A case of animation industry
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19K23272
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Research Institution | Nagano University |
Principal Investigator |
松永 伸太朗 長野大学, 企業情報学部, 助教 (80847509)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | フリーランス労働 / 職場コミュニティ / ワークプレイス研究 / 共有ワークスペースの構成 / エスノメソドロジー / マネジメント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、企業に雇われず働く独立自営業者が互助的な共同体形成を行うことはいかにして可能かという問題について、アニメ産業における企業調査を通して明らかにするものである。2019年度における研究成果としては博士論文をベースとした単著『アニメーターはどう働いているのか:集まって働くフリーランサーたちの労働社会学』(ナカニシヤ出版)の出版、東京都内の制作会社X社への職場調査の実施、アニメ産業の歴史的展開に関する雑誌資料の収集の三つがある。第一においては、フリーランスでありながらスタジオに集って働くアニメーターが、いかに集まることによるメリットを得つつ本来有する高い裁量性を担保し続けているのかという問題について、スタジオに集うアニメーターやマネジメントを担うスタッフ等の相互行為や空間利用をエスノメソドロジーの視座から分析することによって明らかにした。第二については、2020年2~3月にかけて制作会社における参与観察調査を実施し、アニメーターが日々遂行している仕事の時間的側面に着目したデータ収集を行った。具体的には、仕事の掛け持ちをすることが通例であるアニメーターが、どのようにして仕事を抱え過ぎず、かつ仕事が途切れてしまわないように個人の水準でマネジメントを行っているのかに着目した。さらに、そうした個人のマネジメントで対処しきれない事態が生じたときに、制作会社という組織が果たしている役割を捉えるように努めた。こちら一連の研究を通して、独立自営業者の共同体形成に関する知見を社会的に還元し、さらに考察を進めるための重要なデータを収集することができた。第三に、歴史社会学・文化社会学を専門とする永田大輔氏の協力を得て、1990年代における『アニメージュ』から見られる産業変動に関する記事情報を収集した。調査にて収集したデータの分析は、2020年度に進めていくこととしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度においては、博士論文をベースとした単著『アニメーターはどう働いているのか:集まって働くフリーランサー』(ナカニシヤ出版)の出版、東京都内の制作会社X社における調査、アニメ雑誌『アニメージュ』における1990年代における産業変動を示唆する記事情報の収集を進めることができた。とくに、X社における調査においては約3週間にわたって160時間以上の参与観察を実施することができ、社内アンケートやインタビューについても数多く収集することができた。ここで得られたデータは、アニメーターの仕事の進行やそれに対する個人レベル・組織レベルでのマネジメントを捉えることが可能なものであり、仕事の不安定性への対処に基づく共同体形成の実態に接近することが期待できる。単著の出版も予定通り実施できたため、2020年度については専門家からのフィードバックを豊富に受けることが期待できる。さらに永田大輔氏の協力を得て実施しているアニメ雑誌の記事情報からも、これまで注目されてこなかった90年代の産業変動を捉えられる可能性がでてきている。 以上の進捗状況を踏まえると、コロナウイルスの影響で2020年度においてフィールド調査の実施可能性に制約が生じていることを差し引いても、研究課題において重要な問いである「独立自営業者による互助的な共同体形成はいかにして可能か」という問いの解明はかなりの程度接近することができているといえる。こうした認識の基づき、本研究課題の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題においては三ヵ所(東京・京都・長野)のアニメ制作会社におけるフィールドワークを予定しており、そのうち東京のフィールドにおいては2019年度に充実した調査を行うことができた。しかし京都・長野においては、新型コロナウイルスの感染拡大によって年度内におけるフィールドワークの実施の可否が不透明な状態にある。とくに、所属研究機関においても9月頃までのフィールドワークの自粛が要請されており、残り2社での調査の実施が困難である場合も想定して今後の研究を推進する必要がある。 コロナウイルスの感染拡大の状況をみながらとなるが、追加での企業における職場観察調査の実施が難しい場合は、調査を遠隔でのインタビュー等によって実施することを検討する。職場観察調査が可能な程度に感染状況が改善された場合は、まずは感染拡大の程度が相対的に小さい長野における制作会社を対象とした調査を優先的に実施する。このようにしてフィールドワークの実施内容に変更が必要となった場合は、フィールドワークのために執行予定であった予算については2019年度に進めていた1990年代におけるアニメ産業の変動に関する雑誌記事の収集を拡充して埋め合わせることとする。 さらに、本研究課題において確実に成果を積み上げるという観点においては、予想以上に充実した調査を遂行できた2019年度における東京調査で収集したデータを着実に分析していくことも非常に重要である。さらなる調査の可能性については社会状況を鑑みて模索しつつ、状況によってはすでに収集したデータの綿密な分析を通して研究目的を達成するという道筋も考慮しておくこととしたい。
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Causes of Carryover |
研究費はほぼ予定通りに執行しているが、フィールドワークの実施にあたって当初予定していなかったウィークリーマンションの契約を行ったため、若干の残額が生じた。次年度使用額は少額であるため、次年度には著作や論文等の送付料として用いることとする。
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