2019 Fiscal Year Research-status Report
石炭産業の漸次的撤退と青年たちの成人期への移行に関する追跡研究
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19K23276
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
笠原 良太 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (20846357)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 石炭産業の漸次的撤退 / 炭山コミュニティ / 閉山 / 成人期への移行 / ライフコース / 人間行為力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、以下の3点に取り組んだ。第一に、大夕張炭山の特性ならびに学校機能の把握である。炭鉱開基(1929年)から閉村(1998年)にかけての地域・学校資料を収集し、あわせて大夕張炭砿出身者(鹿島中学校同窓生)2名への生活史聴き取り調査を行った。同地域は、炭鉱労働者を中心とした職業コミュニティを形成し、強固な親密性・共同性を醸成していた。また、同地区には中学・高校が一校ずつあり、子どもたちの間にも強固な結びつきがみられた。地元の高校(定時制課程、のちに全日制課程併置)は、次世代労働者の養成機関としての役割を果たした。この結果を次年度実施予定の元教員インタビュー調査結果とあわせて、リサーチペーパーにまとめる予定である。 第二に、大夕張炭砿閉山時の中学生(鹿島中学校、685名)が執筆した作文の分析である。中学生たちは、閉山によって地域や学校、家族の変化を捉え、自身の将来に関する不安を抱いていた。父親の市内ビルド鉱への再就職(炭鉱復帰)は、中学生たちにとって、友人との別れに関する不安を緩和させる効果を有した。一方、1970年代初頭の三菱系炭鉱の閉山(雄別炭砿社企業ぐるみ閉山(1970年2月)や三菱美唄炭砿の閉山(1972年4月)など)を経験して転入してきた生徒は、父親の炭鉱復帰に否定的な内容を記述していた。この結果を雄別炭砿社尺別炭砿の閉山や北炭真谷地炭砿の閉山(1987年)に関する中学生の作文と比較し、博士学位請求論文の主要な章としてまとめる。 第三に、鹿島中学校同窓生の再結合過程(同郷会・同期会活動)と閉山・故郷喪失に対する評価についての検討である。鹿島中学校同窓会(「柏葉会」)は、同窓生が中年期から高齢期に移行するなかで結成された。加えて、同校の閉校(1996年)ならびに鹿島地区の閉村(ダム建設による水没)が彼らの学年を越えた再結合を促し、望郷の念を増幅させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の第一の課題である「大夕張炭山の特性ならびに学校機能の把握」は、地元関係者の協力のもと、地域・学校資料の収集ならびに鹿島地区出身者への生活史聴き取り調査を中心に進めることができた。元鹿島中学校教員(3名)へのインタビュー調査は、新型コロナウィルス感染症拡大の影響で延期せざるをえなかったが、代わりに、鹿島小学校および鹿島東小学校関連資料に加え、夕張教職員組合ならびに夕張教育研究所関連の資料を集中的に収集・閲覧し、炭都夕張全体の教育実践史を捉えた。 第二の課題である「閉山が中学生にもたらした短期的影響の解明」は、まず、大夕張炭砿閉山時の鹿島中学校作文集『閉山』を専門業者に委託してデータベースを構築し、地域・学校・家族の状況理解、将来展望に関する記述の分類を行った。これを同時代・他地域の閉山(尺別炭砿)、異なる時代・同地域の閉山(北炭真谷地炭砿)と比較して、知見の相対化を図った。 また、次年度の課題である「閉山後の適応、成人期への移行全般の把握」(追跡調査)にむけて、地元関係者や元教員、同郷会(東京大夕張会・札幌大夕張会)を通じた準備を進めている。同郷会幹事との打ち合わせは、元教員インタビューと同じく、次年度に延期となったが、代わりに鹿島中学校同窓生へのプレインタビューから、質問すべき項目のヒントを得た(財閥系炭鉱の特性、閉村・水没と故郷に対する思いなど)。今後、同調査のベースとなる尺別炭砿研究の最終成果を取りまとめ(『つながりの戦後史』嶋﨑尚子ほか、共著、2020年秋刊行予定)および博士学位請求論文)、実査にとりかかる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方策は、以下の3点に集約できる。第一に、2019年度実施予定だった元鹿島中学校教員3名へのインタビュー調査を行い、同校の教育実践や閉山前後の学校対応について把握する。教員の視点は、炭鉱での学校教育、父母の教育期待、子どもたちの生活等を把握・相対化するうえで有効である。これに、前述の大夕張炭山コミュニティの特性ならびに閉山直後の中学生の意識変容(作文分析の結果)とあわせて、リサーチペーパー「大夕張炭砿の閉山と子どもたち」をまとめる。 第二に、同郷会(東京大夕張会・札幌大夕張会)幹事との打ち合わせを行ったうえで、閉山時中高生を対象とする生活史聴き取り調査を実施する。複数人の参加が見込まれる場合、座談会形式として、記憶の想起を促す写真や地図などを提示しながら聴き取る。また、尺別研究同様、作文執筆者には作文を提示して閉山前後の状況理解を想起させる。そのうえで、転出後の適応と進学・就職、故郷に対する思いなどを把握し、閉山の長期的影響を捉える。 そして、第三に、作文分析の結果とあわせて考察し、青年期(大夕張炭砿閉山時、中学在学時)の意識がどのように変化し、目標・展望がどう結実したのかをみる。その際、閉山後の移動先(父親の再就職先)を説明変数として、父親の産業転換と炭鉱復帰が子どもたちの中卒・高卒時の進路選択にもたらす影響をみる。この結果を、年度内に論稿としてまとめ最終成果とする。 具体的なスケジュールは、以下の通りである。①同郷会幹事との打ち合わせ・実査準備(7~8月)、②元鹿島中学校教員へのインタビュー調査(9月 )、③実査(10~12月)、④リサーチペーパー執筆(12~1月)、⑤論稿執筆(2~3月)。
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Research Products
(1 results)