2021 Fiscal Year Research-status Report
「メイド」から見る米軍統治下沖縄社会の再検討ー女性史の視点に立脚してー
Project/Area Number |
19K23281
|
Research Institution | Shokei Junior College |
Principal Investigator |
佐草 智久 尚絅大学短期大学部, その他部局等, 助教 (10848542)
|
Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2023-03-31
|
Keywords | 高齢者 / 米軍統治期沖縄 / 家事労動 / 介護労働 / メイド |
Outline of Annual Research Achievements |
本来の調査対象であるメイド経験者女性へのインタビュー等が新型コロナウイルス感染拡大により実施できなかったため、これまでの研究成果の整理に専念した。本来の研究対象であるメイド(=私的領域における家事労働者)については昨年度「米軍統治下沖縄メイド研究―職業の実態と社会的役割を中心に―」(『日本オーラルヒストリー研究』日本オーラルヒストリー学会,16: 127-147.査読あり)として発表している。本年度はこれらの成果の比較検討をすすめるため、米軍統治期沖縄の家庭奉仕員(現在のホームヘルパー、=公的領域における家事介護労働者)制度の動向を中心に、高齢者福祉政策の動向を分析した。その結果、以下の3点が明らかになった。 1点目は施設処遇・在宅処遇ともに、概ね先島諸島や本島周辺の離島部といった周縁部が先んじで実施され、周縁部から都市部に伝播したことである。この背景には本島周辺と先島諸島での戦争被害の差に起因した、戦後復興過程の差異が関係している。2点目は当時本土(日本国政府)が施設処遇を中心とした政策を展開しており、施設数の増加の必要性が声高に叫ばれていた中で、これとは対照的に、沖縄(琉球政府)では在宅処遇、とりわけ家庭奉仕員制度が高齢者福祉政策の中心的役割を果たしていたことである。この背景には琉球政府の財政上の問題なども深く関係している。3点目は、復帰を境に、沖縄では高齢者福祉政策の中心が「在宅から施設へ」と変化したことである。本土(日本国政府)では戦後長らく施設偏重の政策が展開され、在宅処遇への政策的期待がが高まるのは1980年代以降である。この事に鑑みれば、沖縄のこの流れは、本土のそれとは〈逆〉である。 以上の成果は、「復帰前後沖縄の高齢者福祉政策――施設・在宅両処遇の動向を中心に」 (『社会福祉学』日本社会福祉学会,62(3): 32-44.査読あり)にて発表している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度も新型コロナウイルス感染拡大が止まず、当初予定していたインタビュー調査や渡沖しての資料集などが出来ずなかった。そのため、昨年度に引き続き大幅な計画変更を余儀なくされている。したがって、当初の研究計画に鑑みれば、多少なりとも遅れていると言わざるを得ない。また、これまで収集した資料をなんらかのかたちで資料集としてまとめることも検討したが、その作業中に渡沖しての追加調査を要することが判明し、コロナ禍を背景にそれが困難であることから、断念せざるを得なかった。 しかしそのような中でも、出来る範囲で論文を執筆し掲載までたどり着くなど、継続的な研究成果を残せている点から、このように判断している。
|
Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染拡大の状況次第で判断したい。いずれにしても本研究課題の遂行には渡沖による現地調査が不可欠であるが、現在の社会状況ではそれが大変困難なものとなっている。特にインタービュー調査については、本研究課題のインタビュー対象者の多くは後期高齢者であることから、新型コロナウイルス感染拡大の終息宣言が出るまではおおよそ不可能であると考えられる。したがって、(可能であれば)短期間で資料調査を実施するか、それの不可能であれば現在既に収集済みのデータ等を使いつつ、なにが出来るか総合的に検討したうえですすめていきたい。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大にともない、期間再延長を行ったため。残額については、コロナ禍の状況を注視した上で執行をすすめていく予定である。
|