2019 Fiscal Year Research-status Report
アイヌ民族の人々に関する「先住民族教育」についての共同研究
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19K23308
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
岩佐 奈々子 北海道大学, 教育学研究院, 専門研究員 (50846251)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | アイヌ民族 / 先住民族教育 / 意識化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アイヌ民族の人々が先住民族としての新しい自己認識の形成を促す教育を「先住民族教育」と位置づけ、「PA L学習法」(岩佐 2019)の「①脱フレーム化、②意識化、③再フレーム化」という3つのステージを通して「先住民族教育」に関する新しい学習プログラムをアイヌの人々と共同で探求し、開発することを目的とするものである。この目的に向けて、アイヌの人々が現在経験する様々な学習を既存のフレームとみなし、本年度はアイヌの人々の当事者視点を見出すために、既存のフレームからの「脱フレーム化」を目指した。そのために、アイヌの人々の現在の生活を考慮し、この「脱フレーム化」の対象を「教育」と「観光」という二つのテーマに絞り、当事者性の「意識化」を見出すためにアイヌの研究協力者と海外の現地調査を実施した。 本年度は、先住民族の「教育」と「観光」で先行する分野を持つアメリカ・ハワイ州で現地調査を計画し、「教育」については、大学教育と地域の教育の調査を実施した。「観光」については、観光に関する先住民族による学習プログラムの作成と運営の調査を予定していたが、ハワイ州へのCOVID-19の流入により急遽中止し、現地調査自体を中断した。今回の調査では、先住民の大学の研究者や地域の教育者から、今後のアイヌの人々による学習プログラムの開発に関する様々な文献が紹介され、またハワイ大学内の研究センターや地域の学習センターなどから、アイヌの人々が応用して発展させることが可能となる実践的プログラムが紹介された。以上のことから、本年度の研究では、研究者側の「脱フレーム化」と「意識化」が促進され、次年度で計画している地域のアイヌの人々による「先住民族教育」についての検討を行う上で、新しいフレームにつながる「脱フレーム化」をもたらす実践的な取り組みが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究において、当初の計画段階で全く予期していなかったこととして、アメリカ・ハワイ州での現地調査時におけるCOVID-19の流入があり、大学、及び各教育機関や施設の閉鎖による現地調査の中止と研究自体の中断があった。しかし、現地調査を2回に分けて計画し、第1回目(2019)の調査時に「教育」と「観光」という2つのテーマの先行調査を実施していたことで、第2回目(2020)の調査途中での中止の影響はあったものの、ハワイ州におけるこれらの2つのテーマについての概観的な把握が可能になった。第1回目の現地調査では、大学教育に関してハワイ大学システムの3つの4年生大学と2つのコミュニティ・カレッジを訪問し、地域教育に関してオアフ島の博物館、Public Charter School、地域の学習センターとハワイ島のMauna keaで実施されている学習プログラムの調査を実施した。第2回目(2020)の調査では、2人のアイヌの研究協力者が2つのテーマに分かれて調査を行う予定にしていたが、「教育」に関するアイヌの研究協力者とは計画的な調査の実施が可能だったが、「観光」に関するアイヌの研究協力者の渡航がCOVID-19により急遽中止になり、現地調査を中止した。しかし、第2回目の「教育」を担当したアイヌの研究協力者と「観光」に関する情報収集も行っていたことで、次年度でこれらの調査の情報と結果を2人のアイヌの研究協力者と共有し、「教育」と「観光」という2つのテーマの研究を地域のアイヌの人々と共同で進めていくことが可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度における研究では、本研究の3つのステージの中の②「意識化」と③「再フレーム化」という2つのステージを地域のアイヌの人々と共同で作っていく。そのために、北海道内の4つ地域(帯広、平取、白老、旭川を予定)をアイヌの研究協力者と訪問し、本年度の調査結果を報告し、共有する。その過程で、研究者側の「意識化」と地域のアイヌの人々の側の「意識化」という双方の「意識化」のステージを共有し、「教育」と「観光」という2つのテーマについて「先住民族教育」という観点から検討を試みる。また、先住民族に関する教育の理論的フレームと実践的な教育プログラムの関係性を検討し、未来を視野に入れたアイヌの人々による「先住民族教育」に関する新しい学習プログラムの開発を「再フレーム化」というステージで行っていく。但し、次年度の研究は、北海道内の地域を訪問するものが多く、COVID-19の終息の可能性と地域という場が持つ流動性に影響を受けるために、当初の目的である新しい学習プログラムの開発については、COVID-19の状況と人々の健康を最優先させながら、研究協力をしてくれる地域のアイヌの人々と協議しながら柔軟に対応して進めていく。
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Causes of Carryover |
本年度の海外での現地調査は、アメリカ・ハワイ州で2回の実施(2019年, 2020年)を計画していた。2回目の調査(2020年3月)の途中で、現地(ハワイ州)でのCOVID-19の流入と拡散が始まり、同時にアメリカの「国家緊急事態宣言」(3月13日)が出され、調査対象となっていた大学、教育機関、諸施設の急な閉鎖が始まり、現地調査の継続が難しくなった。さらに、調査者側のCOVID-19の感染のリスクが現地であったために、現地調査を3月13日の時点で中止し、研究自体を中断した。これらの理由から、2回目の調査実施で予定していた2人目の研究協力者の渡航が中止になり、その渡航費用のすべてが返金された。 次年度の計画では、中断されたハワイ州での現地調査が再度可能になるかどうかは未定であるが、可能な場合には現地調査を継続する予定である。しかし、それが実施できない場合には、次年度末の総合報告会(2021年)にハワイ大学から研究者を招聘するための費用として当該助成金を使用する計画にしている。
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