2019 Fiscal Year Research-status Report
防災教育における記憶継承は兵庫県下の子どもたちに何を与えてきたか
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19K23332
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Research Institution | Hyogo Earthquake Memorial 21st Century Research Institute |
Principal Investigator |
高原 耕平 公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構, 人と防災未来センター, 主任研究員 (10844566)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 防災教育 / 阪神淡路大震災 / 震災学習 / 世代間継承 / ノンフォーマル型防災教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)兵庫県西宮市教育委員会と協議を重ね、同市立T小学校およびN高等学校において校内調査とインタビューを実施することとした。2020年1月中旬に、T小学校における震災学習の様子を参与観察し、また同校教員の依頼・協力のもと、報告者(高原)が児童を対象とした震災学習授業を実施した。その際、児童の反応だけでなく、教員の世代差による反応の違いをも観察することができた。 2)上記校内調査に入る前の予備調査という位置づけで、阪神淡路大震災前後に生まれ、阪神地域で震災学習を受けてきた世代の方々9名にインタビュー調査を実施した。そのデータを分析し、かれらが「震災の記憶をほとんどあるいは全く持たないけれども、震災のことを身近に感じている」という実感=「中間記憶」を共通して持っていることを明らかにした。また、この世代の子どもたちが、家庭での祖父母・親世代から語り継がれた震災体験を、学校での震災学習での体験により再構成していることを検討した。その成果を論文にまとめ、2020年度5月に地域安全学会に論文投稿を行った。 3)兵庫県西宮市に拠点を置く認定NPO「日本災害救援ボランティアネットワーク」と共同研究を実施し、同NPOが地元で展開している「子ども防災クラブ」について参与観察を実施した。カリキュラムや制度が整備される学校現場での防災教育(フォーマル型防災教育)と異なり、同クラブが子ども自身の遊び体験を重視した「ノンフォーマル型防災教育」の特色を持つことを明らかにし、成果を共著論文として地域安全学会に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画申請時は、学校での震災学習の実態を主に校内調査により明らかにすることを目指していた。しかし教育委員会との協議に時間がかかったため、震災学習を受けてきた成人への個別のインタビュー調査を先に行うこととした。このインタビュー調査では十分な成果を得ることができ、震災学習による感受性の発達という当初のリサーチ・クエスチョンの解明に寄与するものとなった。 学校現場での校内調査については、教員・学校現場が持つ課題意識や実態について理解を深めることができたが、他方で多忙をきわめる学校現場での調査にはさまざまな制約があることや、教員との意識のすり合わせが必要であることを2019年度の調査活動により体得した。 以上のように、当初の研究計画と完全に同一の順序とはならなかったが、状況に応じて柔軟に計画を修正しつつ当初の研究課題の解明に向けて前進することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
震災学習体験者への個別インタビュー調査および学校での校内調査を続けたいが、新型コロナウイルス感染拡大によりそうした方策が採れるか不明瞭である。そこでこれらの調査を実施する可能性を探りつつ、以下の文献調査を並行して実施する。 1)震災学習教材の調査 「人と防災未来センター」資料室や神戸大学震災文庫等の収蔵資料を利用し、これまでの震災学習で用いられてきた独自教材の内容・特徴・編纂者について分析する。 2)兵庫県立舞子高等学校環境防災学科卒業文集の調査 同高等学校は日本で唯一の「防災」を専門とする学科である。その学科の16年分の卒業文集を調査し、震災学習および阪神大震災に対する若い世代の捉え方の変遷を分析する。
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Causes of Carryover |
当初研究計画および研究経費使途の目論見では、校内調査に関連してワークショップ等を開催する可能性を考え、その資機材の予算を見積もっていた。しかしH31年度はインタビュー調査が研究活動の多くを占めたため、ワークショップ等の資機材の経費は執行しなかった。 次年度においては、東日本大震災被災地における防災教育や、被爆地(広島、長崎)・地上戦体験地域(沖縄)における平和学習との対比という視座を得るため、県外での調査旅費に使用する。
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Research Products
(4 results)