2020 Fiscal Year Research-status Report
京都における「共同教育」実践の創出と展開:〈関係形成〉〈理解・認識〉の内容と連関
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19K23354
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Research Institution | Kobe Shoin Women's University |
Principal Investigator |
金丸 彰寿 神戸松蔭女子学院大学, 教育学部, 講師 (70848952)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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Keywords | 共同教育 / 交流教育 / 交流及び共同学習 / 学習指導要領 / インクルーシブ教育 / 関係形成 / 理解・認識 / 歴史的展開 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の研究実績は、以下の2点である。第1に、学習指導要領にみる「交流教育」「交流及び共同学習」における〈関係形成〉〈理解・認識〉の位置づけとその変遷から、「障害理解」及びそれに向けた教育としてのインクルーシブ教育の意義と課題について考察したことである。〈関係形成〉〈理解・認識〉の内容は、インクルーシブ教育の方向性に深化していると読みとれるが、両者の連関構造は「障害」や「学校教育階梯」に応じて提示されているとは言い難い。こうした〈関係形成〉〈理解・認識〉の課題を考える上で示唆に富むのが、京都府下の「共同教育」であった。 第2に、舞鶴・与謝地域における「共同教育」実践における〈関係形成〉〈理解・認識〉のプロセスについて、第1水準:総論レベル、第2水準:「障害」「学校教育階梯」に即して総括を行ったことである。具体的には、「舞鶴地域の実践(1971-88)では視覚障害と聴覚障害の違いにも留意しつつ「9歳の壁」を挟む小学校低・中・高学年段階と中学校段階に及ぶ9ヵ年にわたり、与謝地域の実践(1972-88)では知的障害と肢体不自由の違いにも留意しつつ高校3ヵ年にわたり、〈関係形成〉と〈理解・認識〉の間(更に理解と認識の間)を行きつ戻りつする揺れ動きを組織し意識的に変容を促すという発展的な螺旋構造をなしていた。 「共同教育」のこうした実践的特徴は、「交流教育」(1971-2007)から「交流及び共同学習」(2008-)への政策移行における〈関係形成〉〈理解・認識〉の内容と連関を問い直し発展させる上で示唆に富む歴史的遺産といえる。これらの総括に関しては論文としてまとめ、「神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要」第15巻第1号に投稿しており、現在査読中である。なお京都府下の「共同教育」実践の歴史的プロセスは、「地域ケアリング」第22巻第11号に依頼論文としてまとめ掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍に伴って、京都府下への史資料の収集や関係者への聞き取り調査が進んでいないことが要因であった。とはいえ、一部の関係者(当時の実践者)から、史資料を郵送いただいたりメールでのやりとりをさせていただくなどの対応をとり、少しずつ史資料収集を進めた。さらに「研究実績の概要」で先述したように、舞鶴及び与謝地域の「共同教育」実践における〈関係形成〉〈理解・認識〉の総括を行えたことは、両者が「共同教育」実践の分析枠組みとして有効性を持っていることを検証できたことを表す。 2021年度は、残る京都府南部の乙訓地域における「『発達・障害』学習」(「共同教育」の新たなかたち)の総括を進め、舞鶴・与謝・乙訓地域を対象にして、京都府下における「共同教育」実践の創出と展開を解明したいと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方策は、次の3点である。第1に、京都府乙訓地域の「『発達・障害』学習」実践(1973-90)における〈関係形成〉〈理解・認識〉の内容と連関を明らかにし、その実践的・歴史的意義を考察することである。第2に、当事者の視点において〈関係形成〉〈理解・認識〉の内容と連関を深めることである。これまで非障害児者の立場における〈関係形成〉〈理解・認識〉の特徴的な用語や文章を整理・分析することに偏っていたことから、今後、障害児者の立場からさらなる検討が必要であると考えるからである。第3に、〈関係形成〉〈理解・認識〉の分析枠組みをさらに見直し、「共生」の教育のあり方を探究しうるものに補強することである。すなわち人間の「共生」に関する知見から、〈関係形成〉〈理解・認識〉双方の定義や対象を吟味することである。 この作業を行った上で、「共同教育」の〈関係形成〉〈理解・認識〉が有する現代的意義を考察する。以上の方策を行い、本研究をまとめていきたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍によって、予定していた資料収集及び関係者への聞き取り調査がすべて延期となってしまった。そのため研究をまとめる報告書も作成できず、それらに関する費用も残ったままである。2021年度については、コロナ禍の影響を鑑み、オンラインでの聞き取り調査を行いつつ、資料を郵送していただくなどの代替案をとっていく。また研究の総括を進めまとめる。
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