2019 Fiscal Year Research-status Report
経済ゲーム実験を用いた将来世代への協力を促進する社会システムの検討
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19K23365
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
井上 裕香子 九州大学, 持続可能な社会のための決断科学センター, 特任助教 (00850976)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 持続可能性 / 世代間ジレンマ / 協力行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、将来に向けて持続可能な社会を構築することが大きな課題として認識され、いわば将来世代に対しての協力の重要性が指摘されている。しかし、同世代内での協力を維持しうる社会システムが、将来世代に対する協力の維持にも有効か否かは不明である。そこで、同世代内での集団の協力を維持する社会システムの1つである非協力者への罰と協力者への報酬が、将来世代への協力の促進にも有効か否かを明らかにするため、本研究を進めている。現在、新型コロナの影響で参加者を複数人集めて実施する実験が不可能なので、まずはオンライン調査で可能な形に実験計画を修正した。このオンライン調査で、現世代の利益を犠牲にして将来世代に協力する行動が、同世代の人から“良い”行動と評価されるのか、あるいは“悪い”行動と評価されるのかをまず検討する。当初の研究予定よりは遅れが生じているが、現在は修正した研究計画に基づいたオンライン調査の準備がほぼ終わり、倫理申請が通り次第調査を開始できる状況である。遅くとも夏にはオンライン調査のデータ解析を終了し、論文化の準備を進める。 また、今後の新型コロナの情勢によっては、夏以降にも複数の参加者を集めての集団実験を実施することが難しい状況が続く可能性がある。その場合は第2実験もオンラインで実施することになるため、研究計画のさらなる変更が必要となる。今後研究をスムーズに遂行するために、第1実験(オンライン調査)の倫理申請を待つ間に、オンラインにおける集団実験の実施可能性を検討しつつ、調査で可能な形で実施する予備計画も考慮しておく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は、同世代内での集団における協力を維持しうる社会システム(非協力者への罰・協力者への報酬)が、将来世代に対する協力の維持にも有効か否かを検討することである。本来は複数人の参加者を集めて経済ゲーム実験を実施する計画であったが、昨今の新型コロナに関する情勢により集団実験が難しくなったため、オンライン調査でも可能な実験にデザインを変更した。具体的には、罰と報酬という行動を調べる前のステップとして、そもそも将来世代に対する協力者が同世代から良い人と評価されるかを検討する調査を実施する。現在、この調査の準備はほぼ終わらせている。 当初の予定では昨年度中にresource dilemma gameという経済ゲームを用いて、将来に資源を残す行動に対する報酬や、将来に資源を残さないような行動に対する罰が与えられるかを検討する予定であった。しかし、昨年度所属していた機関では、制度上参加者ごとに経済ゲームの結果に応じて異なる報酬を支払うことが出来なかった。経済ゲームを用いた実験では、ゲームにおける参加者の意思決定の結果が実際に参加者に支払う金額に反映される必要があるため、前所属機関で実験を実施することは研究の質を損なうことに繋がると考えた。そこで、新年度に異動の予定が生じた時点で、異動直後に経済ゲーム実験を実施するよう予定を遅らせた。 しかし現在、新型コロナの影響で、参加者を実験室に複数人集める集団実験が不可能になったため、冒頭に述べたように経済ゲーム実験を使用しない方法に研究計画を修正した。まずは、現世代の利益を犠牲にして次世代のために資源を残す行動が、現在世代に好意的に評価されるのか否かを、オンライン調査にて検討する。現在、新たな所属研究機関に倫理申請中であり、並行して調査準備を進めている。調査の準備はほぼ完了しているため、倫理申請が通り次第速やかに調査を実施する。
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Strategy for Future Research Activity |
昨今の新型コロナの情勢を考慮すると、実験室に参加者を複数人集めて行う集団実験が今年度中に出来るか不明である。そのため、今後の状況によってはオンライン調査で可能な形に計画全体を修正する必要がある。先述した通り、実験1は既にオンライン調査に変更し、実施準備を進めている。また実験2に関しては、夏以降に集団実験が可能になるようであれば、当初の予定通り大学生を対象に経済ゲーム実験を実施する。しかし、夏以降も集団実験が不可能なようであれば、実験2もオンラインで実施できるデザインに変更する必要がある。現在、オンラインで経済ゲーム実験が可能かどうかも含め、オンライン調査の実施可能性を検討中である。 また経済ゲーム実験を2回行えなくなったことに伴い、世代間の利益の葛藤が小さい状況と大きい状況の双方にて将来世代への協力者への報酬と非協力者への罰が生じるかを検討することが難しくなった。そこで、今回の研究では、世代間の利益の葛藤が大きい状況のみに焦点を当てて実験を行うこととした。これは、世代間の利益の葛藤が小さい状況では、将来世代に対する非協力者への罰が生じ、またそれによって将来世代への協力が促進されることが類似の経済ゲームを用いた実験で既に明らかになっているためである(Lohse & Waichman, 2020)。 今後の予定として、遅くとも6月中に調査1を完了、データを分析する。集団実験をオンライン調査に変更したことにより、データ取得にかかる期間が1か月ほど短縮するため、夏中にデータを解析し論文執筆を進める。それと並行しながら、情勢を見つつ秋頃に実験2を実施できるよう準備を進める。12月までにデータを取得し、1月から3月でデータ分析と論文執筆を進める。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」に記載の通り、昨年度中に実施する予定であった実験1を今年度に遅らせた。そのため、前所属機関において実験室を構築するのための物品購入費用の一部(物品費)と、実験参加者に支払う謝金(人件費)が次年度に繰り越された。繰越金は、今年度に実施するオンライン調査の実施費用として使用する予定である。
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