2020 Fiscal Year Research-status Report
経済ゲーム実験を用いた将来世代への協力を促進する社会システムの検討
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19K23365
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Research Institution | Kochi University of Technology |
Principal Investigator |
井上 裕香子 高知工科大学, フューチャー・デザイン研究所, 助教(PD) (00850976)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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Keywords | 持続可能性 / 世代間ジレンマ / 協力行動 / 評判 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、同世代内での集団における協力を維持しうる社会システムが、将来世代に対する協力の維持にも有効か否かを検討した。同世代内での集団における協力を支える社会システムの1つとして、評判がある。(同世代の)大規模な集団内での協力は、他者に協力的な人を「良い」人とみなして、「良い」人同士で協力したり、「悪い」人を協力から排除することで支えられているとする理論がある。しかし、この評判に基づく社会システムが、現世代同士の協力と同じく将来世代への協力をも支えうるのか、それとも将来世代への協力のために現世代の利益を犠牲にする場合には将来世代への協力を阻害するのかは不明であった。 そこで本研究では、将来世代への協力を測定する経済ゲームで「現世代の利益を犠牲にし、将来世代に対して協力した人」と「将来世代の利益を減らして、現世代の利益を最大化した人」への評価をオンライン調査で尋ね、比較した。その結果、現世代の利益を犠牲にして将来世代に対して協力した人は、そうでない人よりも「良い人」と評価されていた。さらに重要なことに、行為者だけでなく評価者自身も将来への協力のコストを負わなければいけない状況でも、将来世代への協力者はそうでない人より良い人だと評価されていた。 本研究は、将来世代への協力者が「良い人」として他者から受容されることを示した初めての研究である。この結果は、少なくとも現世代他者からの評判が将来世代への協力を阻害する可能性は低く、むしろ評判によって将来世代への協力が支えられる可能性を示唆するものである。そうであれば、現世代他者への協力と同様に、将来世代の他者への協力も評判に基づく社会システムで維持されうる可能性がある。この点については今後の検討が必要であるが、今回の結果は、将来世代への協力をどのように社会に広めるかを考えるうえで重要な知見の1つとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、新型コロナにより集団での経済ゲーム実験の実施が困難となり研究計画の変更を余儀なくされたものの、一定の成果をあげることができた。具体的には、同世代内での協力を維持しうるシステムの1つである評判を通じた社会システムが、将来世代への協力を阻害せず、むしろ支えうることを明らかにした。 同世代内での見知らぬ人への協力を支える仕組みとして、評判は重要な役割を果たしている。協力的な人に「良い」評判をつけ、協力的な「良い」人同士で協力して「悪い」人を協力の輪から排除することで、長期的には協力が得になり、大規模な集団内での協力が支えられると考えられている。 しかし、この評判システムが将来世代への協力をも支えうるかは不明であった。将来世代への協力が現世代への協力と同様に「良い」と評価されるのであれば、評判システムが将来世代への協力を支える可能性がある。しかし、将来世代に協力するために現世代の利益が犠牲になるのであれば、現世代他者からは将来世代への協力が「悪い」と評価され、評判システムによって将来世代への協力が抑制される可能性もある。 そこで本研究では、2回のオンライン調査を通じて、将来世代の協力が同世代の他者にどのように評価されるかを検討した。具体的には、将来世代への協力を測定する経済ゲームにて「現世代の利益を犠牲にし、将来世代に対して協力した人」と「将来世代の利益を減らして、現世代の利益を最大化した人」への評価をオンライン調査で尋ね、比較した。その結果、評価者が将来世代への協力のコストを負う場合でも、将来世代への協力者はそうでない人より「良い」と評価されていた。このことは、評判システムは将来世代への協力を阻害せず、むしろこれを支えうる可能性を示唆する。この結果は、将来世代への協力をどのように社会に広めるかを検討するうえで重要な知見の1つとなる。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、本来の研究期間中に調査を終えたものの、研究成果の出版までは至らなかった。現在、研究成果をまとめ、論文の執筆に着手している。今年度中に論文が出版できるよう、今年度のなるべく早い時期に論文を投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナの影響により研究スケジュールにやや遅れが生じたため、データの取得までは昨年度中に終わったものの、論文の投稿までは至らなかった。そのため、論文執筆に要する書籍購入費、論文の英文校閲や掲載費として使用する予定の金額が次年度使用額として繰り越された。今年度中に論文を投稿する予定のため、次年度使用額は、論文執筆・投稿に係る費用として使用する。
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