2021 Fiscal Year Research-status Report
画像の記憶容易性を操作可能にする新規パラダイムの開拓
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19K23376
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
津田 裕之 慶應義塾大学, グローバルインスティテュート, 特任助教 (70847863)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 視覚記憶 / 視覚認知 / 記憶容易性 / 質感 / 絵画 / 絵画様式 / 画像処理 / 記憶バイアス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、写真画像の質感を画像処理技術によって操作することで、画像の記憶特性にどのような変容が起こるかを解明することを目的としている。本研究計画のこれまでの研究から、深層学習技術を用いて、風景写真画像に対して絵画的スタイルを与える(スタイル転写を行う)ことで、写真画像の短期記憶にバイアスが生じることが明らかとなった。すなわち、記憶された風景画像を再認(再生)する際に、特定の絵画的スタイルの画像が回答されやすいというバイアスが見出された。2021年度は同様の実験を長期記憶の課題でも実施し、長期記憶においても記憶のバイアスは存在すること、ただし短期記憶と長期記憶とでは異なるバイアスの生じ方があること、を見出した。画像の色統計量を用いたモデルによる分析から、少なくとも短期記憶の歪みについては、画像の色情報に基づくモデルによってよく再現できることが明らかになった。現在は、短期記憶と長期記憶の結果をより統一的に説明できる数理モデル作りを進めている。 画像の絵画的質感を操作することによって記憶の変容性を研究するための研究の方法論の開発と公開も進めている。これまでに、写真をスケッチ風の質感に変換する画像処理アルゴリズムの開発を行い、Rパッケージとして公開した。また、顔の質感(光沢・シミ・シワ・色味・陰影など)を操作・編集する画像処理プログラムを開発し、Rパッケージとして公開した。後者については論文を国際誌に投稿し、現在査読中である。これらに加えて、画像の空間的構造や複雑性を分析するための画像解析手法を新たにRパッケージとして実装した。さらに、この分析手法を用いて西洋絵画の歴史的変遷と画像統計量の関連を検討した。今後はこうした研究手法を画像の記憶特性の分析に適用し、画像記憶の変容をもたらすメカニズムについてさらに検討を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新しい実験(長期記憶についての実験室実験)の実施が新型コロナウイルス感染症の流行によって予定より大幅に遅れた。そのためこの研究の論文化が遅れている。また、方法論の論文は国際誌に投稿したものの半年ほど査読結果が返却されず、2021年度内に論文の刊行が叶わなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
画像の絵画的質感と記憶の歪みに関する研究は複数の実験から多くのデータが得られた。最終年度ではこれを論文としてまとめて国際誌に投稿する。すでに投稿中の論文についてもリバイズを行い年度内での採択を目指す。また、これまで得た知見に基づいて、画像の記憶のしやすさを向上または低下させると予想される絵画的質感の候補を選定し、それらの絵画的質感を与えられた画像の記憶のしやすさが予想された通りに変容するかを確証する実験を新たに実施する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って実験の実施回数が減ったこと、学会参加費や旅費が不要であったこと、英語論文の校正や投稿の支出が少なくなったことにより、予定より少額の支出となった。今後の使用計画としては、機器の購入、実験参加者への謝金、および学会や論文投稿に関連する経費に充てる。
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