2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K23405
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岩崎 悟 大阪大学, 情報科学研究科, 助教 (00845604)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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Keywords | メトリックグラフ / 偏微分方程式 / 数値解析 / 力学系 / 角域作用素の分数べき |
Outline of Annual Research Achievements |
グラフ上の偏微分方程式は様々な分野・空間スケールで用いられる数理モデルであり,数学的には各辺上での偏微分方程式と各頂点上での接合条件の連立した問題となる.グラフ上の準線形放物型偏微分方程式の場合は「非線形項を評価するためのノルム空間を決定すること」と「接合条件を満たす解を構成すること」が難しく,解を構成してその解の挙動を調べるという研究には到達していない.そこで本研究課題では,グラフ上の微分作用素の分数べきの理論を活用して上記の難点を解決して,グラフ上の準線形放物型偏微分方程式を解析的に研究することを目的としている.2020年度の研究においては,解析的研究に対する新たな知見を加えるため,主にグラフ上の偏微分方程式における数値解析を重点的に進めて解の具体的な振る舞いを可視化し,研究会やセミナーでの発表を行ってきた. 2020年度は本研究課題に対する講演を7件行った.特に日本数学会と日本応用数理学会が主催する異分野・異業種研究交流会2020においてはグラフ上の偏微分方程式の数値解の特徴的な振る舞いから考察されることを紹介しベストポスター発表に選ばれ,2020年度の計測自動制御学会関西支部・システム制御情報学会シンポジウムにおいてはグラフ上の偏微分方程式に関わる逆問題を解析した結果を発表し優秀発表賞に選ばれた.また,応用数学フレッシュマンセミナー2020と明治非線型数理セミナーにて招待講演を行った.また現在,グラフ上のAllen-Cahn方程式の定常問題の解析に関する論文を他研究者と共同で執筆中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は主にグラフ上の偏微分方程式の数値解析を進め解の可視化を数多く行った.具体的にはAllen-Cahn方程式,FitzHugh-Nagumo方程式,Gray-Scott方程式,Keller-Segel方程式をグラフ上で考えた問題の数値解析を行った.グラフ上の偏微分方程式の数値計算において重要なポイントは頂点上での接合条件を満たすようにプログラムを実装することであるが,これをグラフを与えるたびにプログラムを毎度書き換えていては非常に効率が悪いため,グラフの頂点の座標とその接続関係を与えるだけで任意の頂点上での接合条件を満たすように空間差分化を行うプログラムを研究代表者が実装し数値計算を行っている.その効果もあって,大規模複雑なグラフ上での偏微分方程式の計算もプログラムの書き換えの手間はほぼなく行うことが可能となり,より複雑なグラフ上の偏微分方程式の解の考察が行えるようになった. 特にグラフ上のAllen-Cahn方程式に対しては,研究代表者の数値計算の結果の紹介をきっかけに他研究者と共同で研究を行う機会を得て,グラフ上のAllen-Cahn方程式の定常問題の解析的研究に関する論文を執筆している段階である.このようなグラフ上の半線形偏微分方程式の解析の技術は準線形偏微分方程式の解析に重要な知見を与えると考えている. またグラフ上のKeller-Segel方程式の数値解析では,その方程式が持つ保存量と数値的な正値性・安定性を同時に満たすスキームの開発を行っており,このようなスキームの理論はより一般の準線形偏微分方程式における数値解析にも有益なものとなると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では,研究計画当初に掲げていた目標の一つであるグラフ上の準線形偏微分方程式の定常解の解析として,特にグラフ上のKeller-Segel方程式の定常解に焦点を絞り,その定常解の具体的なプロファイルなどについて解析を行うことを目指す.研究代表者は現在,他研究者と共同でグラフ上のAllen-Cahn方程式の定常問題の解析を行っているが,その研究で得られた知見をKeller-Segelの問題にも活かすことを目指す.具体的にはグラフに空間対称性を課した場合に焦点を絞り,空間一次元の定常解の解析において導関数の不連続性を課した問題に帰着することで解析を行う.Keller-Segel方程式は準線形偏微分方程式の一種であるため,準線形偏微分方程式の定常問題の解析などの一般論にも重要な知見を与えると考えている. また2020年度の活動によって,グラフ上の偏微分方程式の解の挙動を数値的に数多く調べることができた.これらの知見から,研究計画当初に掲げていたグラフ上の準線形偏微分方程式の解の時間大域的挙動に関しても研究を進めていく予定である.また,非線形項などに条件をつけることになるかもしれないが局所解の構成を目指して進めていく予定である.
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響により,旅費としての使用がなくなったことが原因の一つである.加えて,研究課題のさらなる発展のため次年度の活動も見据えて予算を一部残した.使用計画としては国内移動が可能になれば主に旅費として使用し,現状の移動規制が続く場合は,主に書籍などの購入に充てる.
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