2019 Fiscal Year Research-status Report
超強磁場を用いたタンタル5d電子の磁性と分子軌道の制御
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19K23420
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石川 孟 東京大学, 物性研究所, 助教 (70843192)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 磁性 / スピン軌道相互作用 / 量子物質 / 強磁場物性 / 新物質開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
周期表の後半に位置する5d遷移金属を含む物質では、磁気的な性質(スピン)と空間分布(軌道)が強く結びついた電子が現れると考えられている。物質内での5d電子間の相互作用により、非自明な電子自由度の秩序化や液体的な状態といった未知の量子状態が現れると期待されており、物性物理学、特に磁性研究の最先端のトピックとして注目を集めている。本研究ではタンタル(Ta)の5d軌道に電子を1つ有する物質の磁気的な性質に着目し、物質合成と基礎的な物性の評価、さらに一般的な超伝導磁石では到達できない強い磁場を用いた電子状態の制御を目指した。 2019年度は、欠損スピネル型のセレン化物GaTa4Se8およびダブルペロブスカイト型のハロゲン化物Cs2TaBr6に着目し研究を開始した。両者は5d電子が面心立方格子上に並ぶという共通点があるが、前者は分子としての性質が強く、後者はイオンとしての性質が強いという違いがある。両物質について純良な試料の作製に成功し、基礎的な磁気的、熱的、構造的な性質を評価した。さらに60テスラにおよぶ強い磁場中において磁化測定を行った。以上の物性測定の結果から、セレン化物においては励起状態までの大きなギャップを有する非磁性基底状態が、ハロゲン化物においては理想的なスピン軌道結合電子が実現することが分かった。 今後はより詳細な物性測定、および、対象物質をタンタルと同じ電子配置を実現する元素を含む物質に拡大することにより、さらなる磁性相の開拓を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
合成温度や原料の組成を精密に制御することにより、磁性研究に十分な純度を持つ試料を得ることに成功した。X線結晶構造解析、定常磁場中での磁化測定、比熱測定を行い基礎的な物性を評価した。 パルス強磁場中での磁化測定用プローブを作製し60テスラまでの強磁場中での磁化測定を行うことができた。本研究で対象とする物質では電子のスピンと軌道の磁性が一部打ち消し合ってしまうため、一般的な磁性体に比べて磁化が小さい。このような物質を対象とした先行研究はほとんどなく、パルス磁場中で磁化測定を行った例は知られていなかったが、パルス幅の短い磁場を用いることで測定が可能であることが分かった。このことは今後の研究を進めるうえでの大きな収穫である。 以上のように、物性が未知の物質群を対象として、試料合成、物性評価の両面から研究を進めることができた。このことから、研究は順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
タンタルを含むGaTa4Se8やCs2TaBr6では期待した通りスピンと軌道の結合が強い電子状態が実現していることが分かった。今後はより詳細な物性測定を行うための単結晶の育成、共同研究による核磁気共鳴測定などを推進し、さらなる磁性の解明に取り組む。 予備実験の結果タンタルとよく似た化学的性質をもち、4d電子を有するニオブを含む物質においてもスピンと軌道が強く結合した電子状態が形成されることが分かってきた。この知見を活かし、タンタルの5d電子を含む物質だけでなく、タンタルと同じ電子配置を実現する元素を含む物質に研究対象を拡大し、物性の評価と強磁場中での磁場誘起相転移の探索を行う。 これまでの研究でスピンと軌道の結合が強い磁性体に関する多くの新しい発見があったたため、論文発表や学会発表での研究成果の公表を積極的に行う。
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Causes of Carryover |
日本物理学会年次大会の旅費として研究費を使い切る予定であったが、現地開催が中止となったため旅費の支出がなくなった。差引額は来年度の研究に必要な試薬などの物品購入に充てる。
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