2019 Fiscal Year Research-status Report
Odd entropy and holography
Project/Area Number |
19K23441
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
玉岡 幸太郎 京都大学, 基礎物理学研究所, 特定研究員 (30848354)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 超弦理論 / 量子情報 / ホログラフィー / AdS/CFT対応 / 量子エンタングルメント |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績は、(1)オッド・エントロピーがどのように情報の拡散を捉えるかの理解、(2)オッド・エントロピーの熱化現象への応用、(3)オッド・エントロピーの基礎的な性質の理解、の3つに分かれる。
まず(1)では、基底状態にある系を局所的に励起させる「局所クエンチ」を行った際、この局所的な変化の伝搬をオッド・エントロピーがどのように捉えるかを調べた。結果として、重力双対を持つ場の理論(Holographic CFT)では古典相関の寄与を含めて情報が光速で拡散していく様子を捉えることが出来た。一方で、可積分な場の理論(RCFT)では古典相関の寄与が存在せず、準粒子描像と一致することが明らかになった。これらの結果は、従来の量子情報量と比較して、オッド・エントロピーが系のカオス性をより詳細に捉えていることを示唆する。次に(2)では、高エネルギー励起状態の縮約密度行列が、どのレベルで有限温度の密度行列と同等に振る舞うかをオッド・エントロピーの観点から調べた。結果として、従来の期待と反して両者は簡単に区別できることを示した。最後に(3)では、オッド・エントロピーを様々なharmonic chainの基底状態や有限温度状態に対して調べた。特に、リフシッツ模型のパラメータが量子相関の総量をコントロールするパラメータとみなせることに着目し、「ある種の量子相関が支配的な系では、オッド・エントロピーが通常のエントロピーよりも大きくなる」ことを明らかにした。これは、重力双対を持つ系でのオッド・エントロピーの振る舞いに定性的な説明を与えていると期待できる。加えて、様々な不等式を調べることで、オッド・エントロピーが真っ当な情報量である事を実証した。
また、以上の(1)-(3)と並行して、(4)重力理論におけるエントロピーの微視的起源について、より一般的な立場から考察・提案を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は、当初より計画していた「重力双対を持つ理論における局所クエンチの解析」を完全に完了し、「より一般の量子多体系でのオッド・エントロピーの解析」も基本的な部分は完了した。このように、当初の計画以上に順調に解析が進んでいる。さらに、ETH(固有状態熱化仮説)の縮約密度行列への一般化である、subsystem ETHに対して従来の予想に反する驚くべき結果を得ることが出来た。このように、オッド・エントロピーの応用として、当初の予想をはるかに上回るインパクトの大きい結果を得ることが出来た。また、マックスプランク研究所に長期滞在して完成させた研究によって、オッド・エントロピーの基本的性質についての理解が大きく進んだ。特に、予想されていた不等式の成立を確認するだけでなく、定性的な性質・ホログラフィー原理との関連性が明らかになった点は特筆すべきである。また、研究代表者は本研究をもとに日本物理学会の若手奨励賞を受賞し、年次大会における招待講演で上述の成果を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
以上のように、基本的な解析、特に重力双対を持つ場の理論における解析は完了したが、より一般的な量子多体系(場の理論)における熱化現象の解析は不十分なため、解析を続ける。特に、グローバルクエンチと呼ばれる種類のクエンチのもとで、オッドエントロピーがどのように振る舞うかを明らかにしたい。一方、この1年で反射エントロピーに代表されるように、重力双対を持つ場の理論においてオッド・エントロピーと類似の振る舞いをする興味深い量子情報量が見つかった。このような情報量は、より一般の量子多体系では全く異なる振る舞いをすると予想される。このような量の解析と初年度のオッド・エントロピーの結果を比較することで、ホログラフィー原理そのものに対する理解を深めていきたい。
上述の解析が終わりまだ余裕があれば、横磁場Ising模型のような量子相転移が起こるスピン系における、オッド・エントロピーの秩序変数としての応用を探っていきたい。以上の解析は全て、非常にハードな数値計算を必要とするため、数値計算の専門家も交えて研究を進めていくことを計画している。加えて、初年度の解析から示唆された、重力エッジモードとの関連をより詳細に詰めていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
本来は日本物理学会への出張旅費にあてる予定であったが、コロナウィルスの影響で現地開催が中止の運びとなったため、止むを得ず使用を断念した。差引額は、当初の予定に加えて書籍などの物品費に充てる。海外渡航や国内出張が制限された状況が続く場合は、旅費にあてる予定だった分を物品費、その他に充てる可能性がある。
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