2019 Fiscal Year Research-status Report
彗星アンモニア分子のオルソパラ比は太陽系初期温度を知るプローブとなりうるか?
Project/Area Number |
19K23450
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
北島 謙生 北海道大学, 低温科学研究所, 博士研究員 (70845445)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 核スピン / オルソパラ比 / アンモニア |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度はアンモニアが氷表面温度を反映したプローブとなりうるかを調べることを目的に,極低温のアンモニア固体上に吸着したアンモニアのオルソパラ比測定の装置の組立と予備実験を行った.超高真空チャンバーに極低温冷却システム,固体モニター用の赤外線分光システムから成る実験装置を立ち上げた.極低温の金属基板上にアンモニア固体を作成し,固体表面から光脱離したアンモニアを共鳴多光子イオン化法(REMPI)により検出した.当初の計画通り,検出用の色素レーザーの波長を変化させ,アンモニアが持つオルソパラ比の測定を試みた.得られたスペクトルは特有の波長依存性を示したものの,アンモニアではオルソ状態とパラ状態のエネルギー間隔が狭く,本測定システムのエネルギー分解能ではオルソとパラのピークが明確に分離できないことが判明した.そこで方針を変更し,アンモニア固体への紫外レーザー照射によりアンモニアを解離させ,生成したNH2のオルソパラ比を測定することにした.NH2の方がアンモニアよりもオルソパラ状態のエネルギー間隔が広く,これらのピークの分離が容易である.また193nmの紫外線照射下ではアンモニアの解離反応によりNH2の生成が可能であることが知られている.すでにNH2の検出に成功し,現在そのオルソパラ比測定について実験を進めている所である.また,分子を解離させずにオルソパラ比を測定する追加実験として,硫化水素を用いた同様の測定にも取り組んでいる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに極低温のアンモニア固体表面に吸着した分子のオルソパラ比を同定する道筋を見出した.当初,アンモニア分子をそのまま検出することを想定していたが,我々の装置のエネルギー分解能では,これらのオルソパラ状態の分離が困難だと判明した.代替案として,よりオルソパラ状態のエネルギーギャップの広いNH2を用いた実験を着想した.アンモニア固体に193nmの紫外レーザーを照射したところ,分子解離により生成したNH2の検出に成功した.さらに他の星間分子として硫化水素(H2S)を用いた測定にも取り組み,H2S固体から脱離したH2S分子の検出にも成功した.
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Strategy for Future Research Activity |
既に検出に成功したNH2やH2Sを用い,氷表面におけるオルソパラ比の同定に着手する.これらの分子が氷の表面温度に応じて異なる値を取りうるかを調べ,分子生成時の氷の表面温度を知るプローブとなりうるかを明らかにする.
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Causes of Carryover |
本研究ではアンモニアに加え,新たにNH2や硫化水素のオルソパラ比測定を行うことを予定しており,これらの検出には異なる波長域の色素レーザーを照射する必要がある.そのため,当初購入を予定していた消耗品であるローダミンB/101の色素に加え,クマリン153の色素が必要となり,次年度の使用額が生じた.
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