2020 Fiscal Year Annual Research Report
彗星アンモニア分子のオルソパラ比は太陽系初期温度を知るプローブとなりうるか?
Project/Area Number |
19K23450
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
北島 謙生 北海道大学, 低温科学研究所, 博士研究員 (70845445)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 核スピン / オルソパラ比 / アンモニア / 硫化水素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,極低温の氷表面から脱離した水素原子を含む分子種のオルソパラ比(O/P比)を測定し,その値が氷表面温度を反映するプローブとなりうるかを調べた.もし得られたO/P比が統計重率(3/1)と異なる値であれば氷表面温度を反映していると考えられる.当初は彗星コマで観測されるNH3のO/P比に着目し,光刺激脱離法と共鳴多光子イオン化法を用いてその値を導出することを試みた.しかしNH3ではO/P間のエネルギー準位が狭く,本測定システムでは両者の分離が困難であると分かり,O/P準位のエネルギー間隔がより広いH2Sで調べることにした. まず室温のH2Sガスを10 Kに冷却したアルミニウム基板に蒸着し,脱離したH2S分子のO/P比を求めた.ところがO/P比はH2Oの結果と同様に統計重率(3/1)であり,氷表面温度を反映しない結果が得られた.このとき室温のH2Sが初期のO/P比を保持したまま基板に蒸着している可能性もあるため,先行研究と同様にマトリックス昇華法を用いてH2Sを一度パラ化させることとした.そこでArマトリックスに混合させた微量のH2Sガスを10 Kの基板に蒸着し,十分な時間放置することでH2Sのパラ化を促した.そして40 Kまで昇温しArを昇華させ,残ったH2S固体におけるH2S分子のO/P比を測定したが,それでも測定したO/P比は3/1であった.さらにO/P転換が非常に遅い時間スケール(>3×10^4秒)で進む可能性も考慮し,H2S固体を24時間ほど10 Kで冷却し続け,O/P転換が起こるかを確認したが,やはりO/P比は3/1であった.以上の結果から,H2Sのように弱い回転束縛系であっても固相でのO/P転換は起こらないものと考えられる.本研究結果は,彗星コマ分子のO/P比は分子生成時の氷表面温度を反映するとされる従来の天文学の仮説を再検討する必要性を示している.
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