2019 Fiscal Year Research-status Report
スピンダウン問題解決に向けた変分法同化スキームへの水蒸気バランス機構の導入
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19K23468
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Research Institution | Japan, Meteorological Research Institute |
Principal Investigator |
澤田 謙 気象庁気象研究所, 気象観測研究部, 主任研究官 (10847205)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 変分法データ同化 / 制約付き最適化 / スピンダウン |
Outline of Annual Research Achievements |
気象予報においては、高精度の観測データや精緻な予測モデルに加えてそれらを繋ぐ高品質な初期値を作成するデータ同化が重要である。データ同化には現在までに様々な技術が導入され高度化してきたが、現状の変分法データ同化による初期値からの気象予報においては、予報初期の過度もしくは過少な降水表現(スピンダウン、スピンアップ)がみられることがある。このような問題の解決に向けて、モデル変数間の水蒸気量に関するバランスを保つ仕組みを変分法データ同化に組み込み、観測データや予報モデルとの整合性がより高い初期値を作成することを試みる。 現在までに、制約付き最適化問題の手法を応用して、過飽和、もしくは、負の水蒸気量状態がデータ同化により作成されることを抑制する仕組みを気象庁非静力学メソ4次元変分法同化システム(JNoVA)に実装し、平成30年7月豪雨を含む数事例で数日程度の同化サイクル実験を行った。その結果、想定通り非現実的な水蒸気量状態が十分に抑制されていること、新手法で導入したパラメータのかなり広い範囲で変分法の最小値探索が破綻することなく安定に動作することが確認できた。また、新手法は直接的には、大気中の水蒸気混合比と温度に関する制約を与えるものであるが、4次元変分法システム内での他の気象変数との関係に基づき、他の気象変数にも影響を与えることでバランスのとれた初期値が作られている。新手法による初期値においては、降水形成の初期における低温傾向の緩和や、より細かいスケールで水蒸気分布の情報の取り込みが確認できた。この初期値からの予報においては、従来手法では過剰に表現されていた降水や偽の降水の表現が軽減され、従来過少に表現されていた降水が実況に近い表現となる様子が見られ、スピンダウン問題の解決に向けて寄与していることが確認できている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の計画は、新手法を定式化、実装し、様々な気象条件・パラメータ値での実験を行い、新手法の効果・影響を確認することであった。 効果・影響の確認においては、高解像度化の影響も調査したいと考えていたが、実験を進めていくうちに新手法により影響を受ける領域が大気下層の一部の領域に限られることが分かってきたため、利用している解析システム(JNoVA)の高解像度化に伴う膨大な計算コストの増大に見合う結果は得られないと判断し、高解像度化、およびそれに伴う観測数を増加させた実験を行うことを中止した。その分、実験事例数を増やすことで、より包括的な効果・影響を把握するよう努めた。
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Strategy for Future Research Activity |
第2年度は、事例数をさらに増やして新手法の効果を統計的・定量的に検証する。特に新手法での制約条件の付加は、通常のデータ同化法で仮定される誤差分布の等方性・一様性・ガウス性からの変更を意味する。誤差分布に起きた変化を詳細に調査することで誤差分布の観点から見た降水現象への寄与を明らかにし、現在知られている他の手法との関連を調査する。 また、変数間のバランスの調査にも取り組み、降水を形成する気象状態における変数間の特徴的な関係の抽出やそれに伴う極端現象のメカニズム解明に資することを目指す。
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Causes of Carryover |
本年度は本研究の基盤となる解析システムの構築やそれを用いた様々な条件下での実験を重点的に行い、新手法の効果・影響を確認することに注力した。そのため、本年度に得られた結果の論文等での成果発表が次年度に持ち越され、次年度使用額が生じた。今後次年度分と合わせて、得られた結果の論文や研究集会等での成果発表を中心に使用する計画である。
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