2019 Fiscal Year Research-status Report
Establishment of a completely passive channel estimation method with zero power consumption at receivers for microwave wireless power transmission
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19K23506
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
村田 健太郎 岩手大学, 理工学部, 助教 (20848030)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 無線電力伝送 / マイクロ波 / 整流器 / レクテナ / 伝搬路推定 / 負荷変調 / 自己干渉 / フェーズドアレーアンテナ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、電池切れで探知困難な受電機へのマイクロ波無線電力伝送の実現に向け、受電機消費電力ゼロの完全受動的な伝搬路推定法を確立することを目的とする。 提案法では、受電機に搭載される整流器の導通・非導通状態(すなわちインピーダンス)が入力電力の強弱に応じ非線形的に変化する性質を逆利用し、送電機の出力電力を変化することで、受電機のアンテナで生じる散乱波を疑似的に変調可能とする。そして前記疑似変調波を送電側の推定機で復調することにより、送受電機間の電波の伝搬路状態を推定可能となる。 本年度は、回路シミュレータおよび電磁界シミュレータを併用したハイブリッド解析により、提案伝搬路推定法の実現性を評価した。まず回路シミュレータADSを用いて倍電圧整流回路を設計し、入力電力に対するインピーダンス特性を評価した。結果として入力電力を10dB程度変化させることで十分なインピーダンスの変化量が得られ、想定通りの疑似変調動作を確認できた。加えて電磁界シミュレータFEKOを用い送電・推定機のアレーアンテナおよび受電機のレクテナ(アンテナ+整流器)をモデリングし、提案法の伝搬路推定精度評価を行った。結果として、送電・推定機前方約4mの範囲内において90%程度の高い伝搬路推定精度が得られ、提案法の有効性を数値解析的に証明することができた。また当該成果を2020年電子情報通信学会総合大会で発表した。 さらに伝搬損を可変アッテネータで模擬した有線試験系を構築し、提案法の推定精度を実験的に評価した。一例として、前述の距離4m程度を想定した伝搬損設定時における伝搬路推定精度は95%を示し、極めて高い精度で伝搬路推定が可能であることを実証した。これは従来不可能とされていた応答不能な電池切れ端末への高効率給電の可能性を示す結果である。今後、試作予定の無線試験機を用いた実伝搬試験により提案法の有効性を確実なものとする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本補助事業開始当初の研究計画では、送信電力制御による疑似変調の実証を本年度の到達目標に設定していた。これに関し、今般、回路シミュレータADSを導入したことで、整流回路の入力電力に対するインピーダンス特性の非線形解析が容易に可能となり、既に所有していた電磁界シミュレータFEKOと連携したハイブリット解析により、提案疑似変調法の適用可能範囲を効率的に評価することができた。結果として、提案法により送受電機間距離4m程度の範囲において約90%の高い伝搬路推定精度が得られることを数値解析的に証明し、本成果を国内学会発表1件に繋げることができた。 一方、実証実験については、当初無線試験を想定していたが、まずは方法的にもシステム的にもより簡易に実施可能な有線試験系を用いた実証試験を先行して行い、段階的に推定条件がシビアな無線試験へと移行する方針に変更した。本有線試験系では、電波の伝搬路損を可変アッテネータの減衰量で、伝搬路の光路差を可変移相器の移相量で等価的に制御することで、レクテナの位置毎の伝搬路を仮想的に模擬することが可能となる。一例とし、2系統の推定機を仮定し、前述の距離4mと同等の伝搬路損を設定した場合の提案法の推定精度は約95%を示し、提案法の高い有効性を実証することができた。この結果は、mオーダ離れた応答不能な端末への給電可能性を示唆するものであり、申請者の調査の範囲では、提案法と同様に、受電機で特別な処理および機構を必票とせず、高精度の伝搬路推定に成功した例は世界的にも他になく、極めて先進的な研究成果であると言える。 以上、本研究は当初の計画通りおおむね順調に進展しており、無線試験については次年度の課題とする。なお現時点での研究成果をアンテナ・伝搬分野の三大国際会議ISAP2020に投稿予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画通り、令和2年度は、試作無線機を用いた実伝搬試験により、提案伝搬路推定法の有効性を実証する。今般試作予定の8系統フェーズドアレーアンテナは、送電機と推定機の機能を切り替え可能となっており、伝搬路推定だけでなく、推定結果に基づく給電制御も可能となっている。本試作をRFtestLab 有限会社に外注済みであり、同年度9月内に納入予定である。 無線機納入までの間は、追加の有線試験を実施予定である。特に、これまでの検討では手動式の可変アッテネータを使用していたため、稼働的に少数の仮想伝搬路条件でしか提案法の有効性を検証できていなかった。そこで年度繰越金を充当し自動式プログラマブルアッテネータを導入することで、様々な伝搬路条件を網羅的に試行することを可能とし、提案法による高推定精度の普遍性を明らかとする。 無線機納入後は、実伝搬環境試験に向け無線局免許登録準備を進めると共に、電波暗室内での無線試験に基づき提案法の有効性を評価する。なお事前の数値解析において、受電機で生じる微弱な疑似変調波を復調の際、送電機の発する強力な電力信号が干渉し、推定精度を劣化させるという現象を特定している。これに対し既に、特殊なアンテナ配置および励振条件に基づく干渉抑圧措置を講じているが、本実験ではさらに送電機と推定機のアンテナに直交偏波素子を利用することで更なる干渉低減を図り、推定精度向上および提案法適用範囲の拡大を目指す。 無線局免許取得後は、実伝搬環境における提案法の実証実験を行い、提案法に基づき実際に受電デバイスに給電し駆動させるデモを行い、本実験結果を国際学術論文誌へ投稿するとともに、動画配信等により世界に発信する。 更に本研究の発展として、申請者の無線信号処理技術の知識を活かし、複数受電機の同時伝搬路推定を可能とする手法についても検討を行い、進捗に応じ追加の研究発表を実施する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、下記2つの理由が挙げられる。1つは、当初参加を予定していた2020年電子情報通信学会総合大会(広島大学)が、新型コロナウイルス感染拡大の影響に伴い中止となり、計上していた出張費約15万円(教員1名・学生1名分)が急遽執行不可となったためである。ただし当学会への論文投稿は完了しており、学会規約上、本論文投稿をもって発表は成立している。 2つ目の理由は、期中、本学内の研究支援事業採択による予算追加(総額80万円)があり、当初本科研費の充当を予定していた(i)回路シミュレータADSの講習会参加費とそれにかかる旅費、および(ii)高周波回路部品と実験備品の購入に、前記追加予算を代わりに充てることができたためである。以上の通り、今般の次年度使用額の発生は、本研究の遅延によるものではなく、研究はおおむね順調に進展している。 なお当該繰越金は、令和2年度試作予定の無線試験機に追加搭載するプログラマブルアッテネータ(キーサイトテクノロジー製)の購入に充当する。本製品は、提案法のキーポイントである送信電力制御において、高線形性の自動電力レベル制御を実現するものであり、本製品追加導入により提案法の実証実験を能率的に実施可能となり、速やかな研究成果発表へと繋げることができる。以上の通り、当該繰越金は事業期間内において確実かつ有効的に執行可能である。
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