2021 Fiscal Year Research-status Report
町並み保全地域における自主規範の実態把握及び調整システム構築・運用指針の作成
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19K23548
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
石山 千代 國學院大學, 研究開発推進機構, 准教授 (30847984)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | まちづくり憲章 / 申し合わせ事項 / 景観形成住民協定 / 自主規範の重層化 / 宿場町の自主規範の共通性 / 空き家問題や災害への対応と備え / まちづくりのビジョン / 法人の設立 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、重伝建選定後に住民組織が複数の自主規範を制定し運用してきた宿場町にフォーカスして調査を実施し、以下を明らかにした。 (1)北国街道沿いの海野宿では、重伝建選定の翌1988年「町並み景観や空間は共通の財産」と捉えて保存のための憲章と申し合わせ事項を住民が制定し、更に8年後、屋外広告物、緑化、自販機、道路や水路の美化等の項目を含む住民協定を土地所有者、建物所有者、賃借人等で締結する形で自主規範を重層化していた。近年は空き家問題深刻化の中で、地域の将来ビジョンを定め法人を設立し、自主規範を尊重しながら新たなまちづくりを行う調整システム再構築の渦中にある。 (2)若狭鯖街道沿いの熊川宿は、重伝建選定8年後の2004年に制定されたまちづくり憲章と申し合わせ事項の制定過程に携わった人物と当時の史料に現地で出会うことができ、制定過程の詳細をほぼ解明したため、制定後の展開と併せて学術論文を取り纏めている。 (3)上記宿場町と継続的に研究中の妻籠宿との比較で以下3点が明らかとなった。第一に、宿場町の自主規範及び調整システムには地域ごとの議論と展開がある一方で、空間的制約の多い中山間部の街道沿いに発達した宿場町ならではの共通性(街道沿いや水路の尊重、車輌との共存、災害への備え、互助、来宿者との交流への意識等)が見出された。第二に、いずれの地域でも法制度や建造物等の修理・修景では対応が困難な、暮らしや運用に関わる事項について自主規範が定められてきた。第三に、空き家問題と災害頻発化への対応は近年の共通課題であり、自主規範に照らしながら現代的に運用していく地域ならではの調整システムを編み出す転換点にある。 また、景観紛争を経て重伝建選定された港町・鞆の浦の町並み保全に関わる主体関係の変化と現在の意見に着目した共同研究で学術論文を取り纏めたことで、自主規範制定の前提条件を整理することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度以来延期せざるをえなかった多数の現地調査の予定が、今年度も緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置の発令と重なり、多くが実施できなかったため。現地関係者のご協力を得て、文献調査及びオンライン調査で想定以上の成果を得ることができた手応えはあるものの、本来であれば仕上げの年として不可欠な現地でないと確認が難しい自主規範の運用に関わる詳細な調査を行うことができず、次年度に繰り越すこととなかったため、やや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
COVID-19の最新状況と対象地域が置かれている状況を踏まえた安全かつ適切な方法を都度慎重に検討した上で、これまで延期となってきた仕上げの現地調査を実施し、わが国の町並み保全地域における自主規範制定・運用に関わる全体像と個別事例双方について研究の精度を高めた上で、空間的・社会的条件の相違を踏まえた比較分析を行い、わが国の町並み保全地域における自主規範を軸とした空間的・社会的調整システム構築・運用指針を作成し、学術論文及び図書等として取り纏める。
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Causes of Carryover |
現地調査及びアルバイト作業依頼を予定していた時期が、緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置の発令と重なり、旅費と人件費・謝金の執行がほとんどできなかったため次年度使用額が生じてしまった。 オンライン及び文献調査で実施できることは一定程度終えたので、仕上げの年となる次年度は、感染拡大が落ち着いたタイミングで効率的かつ安全に現地調査が実施できるように準備をする。ただし、COVID-19の最新状況及び対象地域が置かれている状況と意向を尊重する。
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