2019 Fiscal Year Research-status Report
歴史的煉瓦造建造物の保存に資する、煉瓦の電気的特性が塩類風化に及ぼす影響の解明
Project/Area Number |
19K23565
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
水谷 悦子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 研究員 (90849796)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 組積造 / 塩類風化 / 移動物性 / 熱水分塩同時移動 / X線CT / 表面電荷 / 塩析出 |
Outline of Annual Research Achievements |
煉瓦における塩溶液の輸送現象と塩析出性状を定量的に明らかにし、将来的に煉瓦造建造物に適応可能な劣化予測モデルの開発につなげることを目的として以下の検討を行った。 1.国産煉瓦の表面電気的特性の評価 実験で用いる産地の異なる2種類の焼成煉瓦を対象に表面電気的特性を評価するため、材料表面近傍のすべり面の電位に相当するゼータ電位の測定とイオンクロマトグラフによる陽イオン交換容量の測定を行った。煉瓦の焼成過程において鉱物組成が変化することが想定されるが、焼成後の煉瓦も原料である粘土鉱物と同程度の負の電荷を保持することが確認された。 2.毛管吸水実験による煉瓦における塩溶液の移動特性の評価 煉瓦における塩溶液の移動特性を把握するため、塩化ナトリウムと硫酸ナトリウムの2種類の塩溶液を用いて毛管吸水実験を行った。実験は重量計測による積算吸塩水量の測定とガンマ線含水率計による材料内の含塩水率分布の測定の2種類の測定方法で行った。対象とする煉瓦における塩溶液の移動速度はバルク溶液の特性(密度、粘性、表面張力)から想定されたものより著しく遅くなることが明らかになった。 3.放射光X線CTによる煉瓦における塩性出の定量化 煉瓦における塩析出性状および塩析出に伴う水分の移動性状の変化を解明することを目的に放射光X線CT(CT; BL20B2, SPring-8)を用いて塩化ナトリウム塩溶液を含ませた煉瓦の乾燥過程の三次元画像を撮影した。今年度はCT画像から塩の結晶を抽出する画像解析手順を整理し、煉瓦の表面及び内部での塩の結晶生成について定量的な評価が可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ゼータ電位及びイオンクロマトグラフによる陽イオン交換容量の測定により、対象とするレンガが負の電荷を有することが明確に明らかになった。 また、X線CTによる材料内での結晶生成の定量化がこれまで課題であったが、繊細な位置合わせの上初期状態の画像との差分をとることで、煉瓦の表面及び内部での塩の結晶生成について定量的な評価が可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度構築したX線CTによる塩溶液の乾燥過程の結晶生成の同定手法を用いて、今年度は塩の種類や溶液の濃度を変えた条件で実施し、結晶生成量と水分移動特性の変化をより詳細に検討可能にする。加えて、実部、空隙、結晶、溶液の4相を同定した画像を用いて3DMA法で空隙構造の解析を行い、結晶生成が空隙の連続性、細孔径分布、屈曲度といった輸送現象に関わる空隙の幾何学性を示すパラメータを算定し、塩析出に伴う移動物性変化を適切に表現するうえで重要なパラメータをまとめる。 これまでの研究成果を論文にまとめ、国内外で発表を行う。
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Remarks |
2019年度の業績一覧を更新予定
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Research Products
(4 results)