2019 Fiscal Year Research-status Report
超高濃度PVDF溶液を用いた圧電高分子フィルムの高性能化
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19K23568
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
山田 典靖 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (60850881)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 超高濃度PVDF溶液 |
Outline of Annual Research Achievements |
超高濃度PVDF溶液からの圧電フィルム作製を試みた結果,以下の2つのことが分かった.1つ目は,今回用いた手法によって作製可能な溶液の最大濃度は40wt%であったことである.5wt%間隔で溶液を作成し,その溶液からそれぞれフィルムを製膜し,XRDを用いて結晶構造解析を行ったところ,5~35wt%溶液のフィルムに関しては圧電性を有する結晶構造を示した.しかし,30wt%を超えたところから製膜性が変化し,成膜条件の統一が困難になったことから濃度間の結晶化度を比較するには不十分な実験であった.2つ目は,上記のXRD測定において40wt%溶液から製膜したフィルムの結晶構造が無極性結晶であるα型結晶を示したことである.先行研究によればPVDFは溶媒キャスト法において蒸気圧が低い溶媒を使用した場合に圧電性を有する結晶であるγ型結晶・β型結晶を示すことが報告されている.そのため,高分子溶液の高濃度化による蒸気圧降下現象を利用することで,よりγ型結晶・β型結晶の多いフィルムが作成可能なのではないかと考えたが,これまでの成果はそれを裏付けておらず,超高濃度PVDF溶液の結晶化は低濃度領域のそれとはまったく異なるメカニズムである可能性が示唆された.しかし,超高濃度溶液の作成ではその粘度の高さから均一な溶解が困難であるため,より安定した超高濃度溶液の作製法とその溶液の塗布法の実現を通して今回の結果を精査していくことが今後の課題となる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定は,PVDF溶液を安定的に超高濃度化し,その溶液から作られる圧電フィルムの結晶構造を評価することであった.しかし,超高濃度領域における溶液の粘度が想定以上の高さになることが実験から分かった.また,この実験内の結果から見出されたこととして,溶液の濃度を現在作成可能な最大濃度の40%にしたときに,非極性構造であるα型結晶のフィルムが生成された.そのため,本研究を実施する上で想定していた仮説は「PVDF溶液の濃度を高めるほど圧電性を有する結晶構造の割合が増えるのではないか」というものだったが,実際には超高濃度領域ではまったく異なる結晶化挙動で溶液がフィルム化されている可能性を見出した.
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Strategy for Future Research Activity |
前項で記述した事柄から,2つの推進方策を進めている.1つ目は混錬装置の改良である.溶液の濃度が想定以上の高さになったため,通常の強力な撹拌に用いられるような撹拌翼による撹拌では均一な溶液の作製が困難であることがわかった.そのため,加圧によって溶解する手法を検討中である.2つ目は溶液の成膜環境下における蒸気圧測定装置の開発である.高分子溶液は濃度が上昇するほど顕著に蒸気圧が下がる.当初の想定ではこの蒸気圧降下現象を利用した圧電結晶の生成量増加を検証する予定であったが,現在作成可能な範囲の濃度では蒸気圧が十分に下がっていない可能性がある.そこでPVDF溶液の液滴が乾燥する環境に特化した蒸気圧測定装置を開発できないか検討している.通常,蒸気圧の測定は試料を加熱して蒸発するときの圧力を測定するが,本研究では溶液の乾燥過程で熱を加えないため,微弱な圧力変化を検知可能な装置の開発を目指す.
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Causes of Carryover |
研究の遅れにより装置が必要になる時期がずれ込んだことと購入予定であった装置の性能変更を検討したことによる価格変動のため.上半期に蒸気圧を測定する装置の開発と新しい撹拌手法に必要になる部品をそれぞれ購入し,下半期は実験で使用する溶媒などの消耗品費を使用する予定である.
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