2019 Fiscal Year Research-status Report
単一分子エネルギーアップコンバージョンの機構解明と高効率化
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19K23591
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
今井 みやび 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 特別研究員 (50845815)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / 単一分子 / エネルギーアップコンバージョン / 励起子ダイナミクス / 電子ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
エネルギーアップコンバージョン(UC)発光とは、物質に入射する量子(光・電子)よりも高エネルギーの発光が得られる現象である。この現象の利用により様々なエネルギー変換現象を高効率化・高機能化できると期待され、UC発光現象に関する研究は盛んに行われてきた。しかし、これまで高い空間分解能でUC発光を計測する手法が存在せず、単一分子レベルでUC発光の詳細なメカニズムは解明されていない。 本研究の目的は、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いてUC発光を引き起こす電子・励起子ダイナミクスを単一分子レベルで明らかにすることである。入射する量子として太陽電池や有機ELなどのエネルギー変換デバイスで特に重要な電子と光の2種類を用いる。我々はこれまでに電子を励起源とした場合、フタロシアニン単一分子のUC発光をサブ分子分解能で観測することに成功している。本年度は、“光”を励起源として単一分子UC発光計測を実現するため、計測システムの構築に取り組んだ。 まず、既存のSTMにレーザー照射機構を組み合わせ、STM接合に光照射し局在プラズモンを介して単一分子を選択的に励起・発光させることに成功した。次に、照射光を波長変換レーザーに変更し、LabVIEWによって自動でレーザー波長を掃引し単一分子発光を検出するシステムを構築した。 このような計測機構の改良により、照射光の波長(エネルギー)に対する単一分子発光強度の計測、つまり単一分子励起スペクトルが計測可能となった。励起スペクトロスコピーは、分子の励起状態の情報が得られえる極めて重要な分光法のひとつであるが、これまでに単一分子の励起スペクトロスコピーは報告例がなく、本研究によって初めて実現された。 今後は、本年度開発した単一分子励起スペクトルを用いて、光を励起源としたUC発光の検出、およびメカニズムの解明に取り組む。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いてエネルギーアップコンバージョン(UC)発光を引き起こす電子・励起子ダイナミクスを単一分子レベルで明らかにすることである。入射する量子として太陽電池や有機ELといった光電エネルギー変換デバイスで特に重要な“電子”と“光”の2種類を用いる。 これまでに、トンネル電流を励起源として用いた場合に、フタロシアニン単一分子のUC発光をサブ分子分解能で観測することに既に成功した。また、UC発光を引き起こす電子・励起子ダイナミクスを、分子の吸着構造、電子状態、及び分子周辺の電磁相互作用の制御により最適化し、UCの高効率化に取り組んだ。このように電子を励起源とした場合の単一分子UC発光の研究は極めて順調に進んでいる。 一方、光を励起源とした単一分子のUC発光に関しては、実験を行うためのシステムの構築に取り組んだ。STMに波長変換レーザーを組み込み、局在プラズモンを介して単一分子のフォトルミネッセンス計測を達成した。そして、LabVIEWをベースとしたレーザー波長の自動掃引・単分子発光検出システムを構築し、単一分子の励起スペクトルを計測できるようにした。このシステムを用いて、実際にフタロシアニン単一分子の励起スペクトルを極限の空間・エネルギー分解能で計測することに成功した。単一分子のフォトルミネッセンス法と励起分光法はこれまでに報告例がなく、世界に先駆けて実現した。このように、光を励起源とした単一分子UC発光計測の準備は順調に進んでおり、今後の展開としては、分子の吸着構造、電子状態、及び分子周辺の電磁相互作用を最適化し、単一フタロシアニンのUC発光観測に取り組むする予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、走査トンネル顕微鏡をベースとしたフォトルミネッセンス法と励起分光法の開発を行ってきた。そして、これらの手法を用いてフタロシアニン単一分子のフォトルミネッセンス、及び励起スペクトルを計測することに成功した。今後は、これらの手法を用いて、UC発光という新奇な現象の観測とメカニズム解明に取り組む。光を励起源とした場合の単一分子UC発光の検出を実現するために、分子周辺の電磁相互作用やレーザー光の波長や強度を変えながら、単一フタロシアニンの励起スペクトルを計測する。もしUC発光が生じた場合、発光が検出される閾値波長が長波長(低エネルギー)側にシフトすると予測される。光励起によるUC発光検出が達成された後、発光と伝導計測の結果からUC発光のメカニズムを解明する。そして、分子が吸着する絶縁層の厚みや分子周囲の電磁相互作用(局在プラズモン)の制御によってUCに関連する伝導プロセスの最適化を行う。
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Causes of Carryover |
購入予定であった無金属フタロシアニンの重水素置換体(30万円)を共同研究者に合成・提供していただけることとなったこと、及びコロナウイルスの影響で2020年3月の国内学会が中止となり、旅費が必要なくなったため、今年度使用予定であった556,473円を次年度に使用することとなった。次年度は、これらの費用を使用して、計測システムの改善を行う。具体的には、本年度開発した外部照射レーザーの自動波長掃引システムを改良するため、マルチファンクションI/O (30万円)と光学部品(25万円)の購入にあてる予定である。
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