2019 Fiscal Year Research-status Report
運動性ではなく皮膚感覚性の脳波活動を利用したロボット運動制御BMI
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19K23612
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Research Institution | Ibaraki National College of Technology |
Principal Investigator |
澤畑 博人 茨城工業高等専門学校, 国際創造工学科, 助教 (40571774)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | ブレインマシンインタフェース / 脳波 / ロボット制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、重篤な運動機能障害を持つ患者のための補助装置として、ブレインマシンインタフェース(BMI)の研究開発が盛んである。本研究課題では、脳波を用いて多自由度のロボット運動制御を行うBMI実現のために、身体運動に関連した脳波を利用するのではなく、皮膚感覚に関連する脳波「事象関連電位」を利用した新しい原理を提案する。その原理とは、感覚刺激によって誘発される事象関連電位が特定の身体部位への意識的注意によって変調を受ける性質を利用し、これに基づいて利用者が身体のどの部位を動かしたいのかを脳波から読み取るものである。この原理を利用すれば、筋ジストロフィー症や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などのように、運動機能は障害を受けていても皮膚感覚が機能しているのであれば、その患者の運動機能を代替する装置が実現可能になる。 この原理に基づくBMIの実現には、構成要素として (i) 皮膚刺激および脳波計測システム、(ii) 脳波中のERP検出によるターゲット部位推定アルゴリズム、(iii) ターゲット部位を駆動するロボットグローブがそれぞれ必要になる。初年度となる令和元年度は、これら個別の開発を主な目標として進めた。その成果として、皮膚刺激に対する脳波応答の計測が可能なシステムの構築が完了し、さらにこれを用いて得られる脳波信号を解析することによって、特徴的な応答波形を得ることができた。特に、事象関連電位と同時に発生する高周波信号成分(30-60 Hz)に着目することによって、より正確性の高い解読アルゴリズムが実現可能であることが示唆された。さらに、別途の義手ではなく、患者自身の手を駆動するためのロボットグローブも試作を開始し、軽量且つスリムな人工筋肉アクチュエータを用いて手指の屈曲させる駆動力を得ることにも成功した。2年目は、これまでの成果を統合することで、より具体的にBMIシステムの試作を試み、有効性の評価を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題で提案するBMIは、以下(i)~(iii)の構成要素からなり、初年度はこれら個別の開発を進めた。 (ⅰ) 皮膚刺激および脳波計測システム:皮膚表面に接触させた電磁式の振動子をコンピュータからの信号で制御することが可能な刺激装置を試作した。また、脳波計測システムには、無線式の脳波計を用い信号データ収録ができるようシステム構築した。これを用いて評価実験を行った結果、手指への皮膚刺激に対し脳波が特徴的な応答波形を示すことが確認され、刺激装置および計測システムについては、当初の計画に沿った成果を得ることができた。 (ⅱ) 脳波中のERP検出によるターゲット部位推定アルゴリズム:当初は、脳波信号の低周波成分(4-13 Hz)に対しSVM法またはLDA法を適用することを検討していたが、実験で得られた脳波信号をスペクトル解析した結果、頭頂部(Pz)脳波に含まれる高周波成分(30-60 Hz)が刺激に対する顕著な変化を示したため、この信号成分がターゲット部位の推定の有効な手掛かりとなることが示唆された。当初は初年度に達成予定であったが、より正確性の高いターゲット部位推定アルゴリズムの実現可能性が高まったことから、次年度も開発を継続する。 (ⅲ) ターゲット部位を駆動するロボットグローブ:当初は2年目に実施予定だったが先行して初年度から開始した。麻痺手指に装着することを想定し、形状記憶合金を基材とした人工筋肉ソフトアクチュエータを用いることで、軽量且つスリムなロボットグローブの試作と性能評価を行った。その結果、ヒト被験者の手指を屈曲させるために十分な駆動力を得ることができた。 以上を総合すると、当初の計画から変更した部分はあるが、個々の要素技術の開発・評価において成果を出しており、2年目に実施予定のシステム統合とBMI技術としての有効性評価に向けて概ね良好な進捗を辿っていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまで個別に開発を進めてきた皮膚刺激および脳波計測システム、脳波中のERP検出によるターゲット部位推定アルゴリズム、ターゲット部位を駆動するロボットグローブをそれぞれ拡張・統合してBMIを試作する。具体的なシステム構成として、刺激装置を用いて指先の皮膚を感覚刺激、それに対する脳活動の変化を脳波計を用いて計測、ERP検出によるターゲット部位推定アルゴリズムを用いて検出された指をロボットグローブで駆動する。手指刺激-脳波計測-信号解析-手指駆動を一つのサイクルとして、これを連続して行うことで意思の通りの手指駆動を半リアルタイムに行えるようにする。 想定される課題として、①ターゲット部位推定アルゴリズムの計算時間が長く、実用的な即応性が得られない可能性がある。その場合、半リアルタイム制御の実現よりも、提案原理そのものの有効性を詳細に評価することを重視し、事前に計測しておいた脳波データに対してブートストラップ法などを用いた判別確度の定量評価を行う。また、もう一つ想定される課題として、②ロボットグローブの有効性は健常な被験者を対象とした実験のみでは実際の麻痺患者にも有効か否か評価できない可能性がある。これに対する方策として、被験者自身の手指ではなく別途の手掌模型などを用いて疑似的な評価実験を行う。 また、提案原理を用いたBMI技術の有効性が確認できた場合、さらなる応用として手指の運動機能代替以外の用途についても検討する。具体的には、身体障碍者の自立的な生活のために重要である電動車いすの制御へ応用できるか否か検討する。 以上の研究計画を推進し、得られた成果は学術論文、学会発表、特許として外部に報告してゆく。
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Causes of Carryover |
本研究遂行に必要な脳波計測装置を購入したが、当初予定していたよりも少ない価格で十分な性能を有する製品を購入することができたため、令和元年度の研究費に未使用額が生じた。この予算は次年度予算と合わせて使用し、計測信号の品質向上を目的としたノイズ対策のため実験室のアース及び簡易シールドブースの設置費用として用いる。
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