2020 Fiscal Year Research-status Report
バリノマイシンのカリウムイオン選択性の水和効果の解明
Project/Area Number |
19K23624
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
平田 圭祐 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (80845777)
|
Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
|
Keywords | バリノマイシン / 水和効果 / 赤外分光 / エレクトロスプレーイオン化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、生体中でカリウムイオン(K+)を選択的に細胞外へ輸送するバリノマイシン(VM)のイオン選択性の起源を微視的な水和効果の視点から解き明かすことを目指している。令和二年度は1)~3)の成果を得た。 1) 冷却イオントラップ赤外分光法と呼ばれる革新的な分光技術を用いて、VM-K+錯体に水分子が一つ付加した水和クラスター(VM-K+(H2O))の赤外スペクトルを測定した。量子化学計算で得られた理論赤外スペクトルとの比較から、三種類の異性体A、B、Cが共存することが明らかになった。異性体A、Bはともに水分子がVMのケージ内部に入り込み、水の酸素原子がK+と直接相互作用しているが、水分子の位置が異なる。一方、異性体Cは水分子がVMのケージ外にとどまり、VMのカルボニル酸素と水素結合を形成していることがわかった。 2) 異方性パラメータの解析から、異性体Cは球状であり、水が付加していないVM-K+錯体と比較してもよりコンパクトな構造をしていることが明らかになった。これは水分子が一つ付加することでVMがよりコンパクトになり、脂質膜中での透過性が向上することを示唆している。この成果はThe Journal of Physical Chemistry Letters誌に掲載され、Supplementary Coverに選出されている。 3)K+以外のアルカリ金属イオン(Li+, Na+, Rb+, Cs+)とVMの錯体に水分子が一つ付加した水和クラスターの赤外スペクトルを測定することに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
標的分子に水分子を一つ付加したときの微視的な水和効果について明らかにし、その成果をまとめた論文が国際誌(査読有)に掲載されたため。
|
Strategy for Future Research Activity |
アルカリ金属イオン(Li+, Na+, Rb+, Cs+)-VM錯体に水分子が一つ付加した水和クラスターの分子構造を明らかにし、イオン選択性が低いイオンに対して水がどのような役割を果たすのか明らかにする。また、水分子が二つ以上付加した水和クラスターの構造解析を進め、なぜイオン選択性が生じるのか複合的な観点から議論する。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍での大学閉鎖により試薬・光学部品等の消耗品の購入が抑えられたため。次年度は試薬の購入や、エレクトロスプレー部分の消耗品の購入等に充てる予定である。
|
Research Products
(4 results)