2019 Fiscal Year Research-status Report
フルオロアルコール集積化戦略に基づく機能性分子・高分子材料創成
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19K23625
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
信田 尚毅 東京工業大学, 物質理工学院, 特任助教 (20839972)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | フルオロアルコール / ラジカルカチオン / 電解反応 / 有機電子移動化学 / 機能性分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、フッ素官能基を有するアルコール、すなわちフルオロアルコールを鍵骨格とし、これを集積化した機能性分子・高分子合成と物性解明に挑戦することを目的とする。フルオロアルコールは電子吸引性のフッ素基を多く含むために耐酸化性が高く、またアルコール基の分極が大きいために水素結合供与性が非常に強いという特徴がある。市販のフルオロアルコールを溶媒や添加物として有機反応に用いた研究例は数多く報告されている。特筆すべき特徴として、フルオロアルコール溶媒中ではラジカルカチオン種が安定化されるという、他の溶媒では見られない特異な溶媒効果が挙げられる。一方で、フルオロアルコールがラジカルカチオンを安定化するメカニズムは明らかとなっていない。さらに、フルオロアルコールを機能性の官能基と考え、積極的に分子・材料設計に応用した例は限られている。 そこで本研究では、フルオロアルコールを集積化した機能性分子および高分子群を合成し、電子移動を伴う化学プロセスに応用することに挑戦する。近年、電子移動を伴う有機合成・高分子合成が盛んに研究されている。また、電子移動過程は電気化学発光、有機EL、センサーやデバイスなどにも関与する重要な化学プロセスである。その中で、酸化反応においてはラジカルカチオン種が鍵中間体となるが、フルオロアルコールを集積化した物質群を合成しこれらの反応系に適用することで、ラジカルカチオン性活性種の安定化と、それに伴う電子移動反応の高効率化を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノールや2,2,2-トリフルオロエタノールに代表されるフルオロアルコール類は、ラジカルカチオンを安定化する溶媒効果が知られている。本研究はこの性質に着目し、フルオロアルコール骨格を1分子中に複数個有する集積化分子群を合成し、ラジカルカチオン安定化をはじめとする特異な性質を示す機能性分子の創出を目指すものである。 本年度は、市販のフルオロアルコールとチオール類を用い、エンーチオール反応によりフルオロアルコール部位を複数有する分子群の合成に取り組んだ。2ーアリルヘキサフルオロイソプロパノールとチオグリコール酸エステル類を用いることで、同一分子内にフルオロアルコールを1ー4つ有する分子を合成した。核磁気共鳴装置を用いた構造解析により、所望のフルオロアルコール集積分子群が得られていることを確認した。この手法は、市販原料から1ステップで目的分子を合成することが可能であり、またグラムスケールでの大量合成も可能であることを確認している。そのため、今後予定している分子機能評価を円滑に遂行する上で、重要な原料合成手法を確立することができたと考えている。以上から、本研究はおおむね順調に進展していると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
すでにフルオロアルコールを集積化した分子の合成を達成したため、同様のコンセプトでフルオロアルコール部位を集積化した高分子の合成にも着手する。 合成した小分子・及び高分子を用い、サイクリックボルタンメトリー(CV)を用いて電気化学測定を行う。モデルとなるレドックス活性な有機分子を選定し、それらのCV測定をフルオロアルコールの濃度を変化させながら行うことで、フルオロアルコール集積材料が有機分子のラジカルカチオン体をどのように、どの程度安定化しているかを網羅的に評価する。ラジカルカチオンの安定化の度合いについて、熱力学的な指標による定量的な評価も行う予定である。 また、フルオロアルコール骨格はアニオン種に対して強く相互作用することが知られており、アニオンアクセプターとしての機能が期待される。そのため、核磁気共鳴装置を用いアニオンとフルオロアルコール集積材料の相互作用について調査する。アニオンアクセプターとの相互作用の評価に頻繁に用いられるハライドや水酸化物イオンをはじめとして、ドナー性が低いアニオン種についても検討を行う。また、本研究で合成したフルオロアルコール集積材料は構造が柔軟であるため、分子半径の大きなアニオンや複雑な骨格のアニオン種に対して特に有用なアクセプターになり得ると期待しており、このような仮説に即した検討も進めていく。加えて、電気化学測定によるラジカルカチオン安定化と、アニオンアクセプターとしての性能を総合的に評価し、これらの物性に相関についても検討する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス拡散防止のため、参加予定であった学会が開催中止となり、旅費として予定していた支出が減じた。また同様の理由で、参加予定であった学会の参加登録を見送ったため、当該助成金が生じた。次年度の旅費、及び消耗品購入費としての使用を予定している。
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