2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K23639
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
松本 咲 甲南大学, 先端生命工学研究所, 特任教員(助教) (50850822)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | RNA / グアニン四重らせん / 分子クラウディング / 液-液相分離 / RNA-タンパク質相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内は生体高分子で混み合った状態にあり、その環境(分子クラウディング)は細胞内の反応速度や機能的特性に影響を与えている。細胞質や核質では高度に生体高分子が混み合うことにより相分離が起こっていること、さらには相分離によって形成した膜のないオルガネラ(液滴)が生命現象に重要な役割を果たしていることが明らかになっている。このような液滴にはRNAが局在することが明らかになっているものの、どのような特性を持ったRNAが液-液相分離に寄与するのかを説明する系統的な理解には至っていない。 本研究では、多様な核酸の高次構造の、液ー液相分離による液滴への影響を分子レベルで定量的に解明する。そのため、下記の2ステップに分けて研究を行う。 (1)液滴に局在するRNAの特性を明らかにする。(2)核酸が液滴の性質に及ぼす影響を明らかにする。 本年度は、(1)について、RNAのグアニン四重らせん構造に着目し、様々な特性持ったグアニン四重らせん構造が液滴形成へ及ぼす影響を定量的に解明することを目指した。局在するグアニン四重らせん構造の物理化学的性質を調べるため、2-4枚のグアニンカルテット、および2-4塩基のウラシルからなるループを有するRNAを用いて、細胞内環境を模倣した溶液中でのRNAの熱的安定性を評価した。その結果、グアニンカルテットを2枚有するグアニン四重らせん構造は分子クラウディングによる安定化が観測されなかったのに対し、3枚以上のグアニンカルテットを有するグアニン四重らせん構造はその枚数に応じて安定化することが明らかになった。この結果は、細胞内の様々なクラウディング環境における応答が、グアニンカルテットの枚数によって異なることを示しており、同じグアニン四重らせん構造でもグアニンカルテットの枚数により液滴形成に与える影響が異なることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、上述した(1)の研究について、RNAグアニン四重らせん構造の形成が液ー液相分離に及ぼす影響を検討した。まず、グアニン四重らせん構造が周辺の分子環境の変化によってどのようにその熱安定性を変化させるのかを系統的かつ定量的に調べた。具体的には、0-40 wt%のPEG200(ポリエチレングリコール(平均分子量200))存在下における、2-4枚のグアニンカルテットおよび2-4塩基のループを有するグアニン四重らせん構造の熱安定性を調べた。その結果、グアニンカルテットの枚数が多いほど、PEG200による安定化の程度が大きいことが明らかになった。PEG200非存在下での熱安定性と比べて、二枚のグアニンカルテットを有するRNAでは40 wt%のPEG200により安定化しなかったのに対し、3-4枚のグアニンカルテットを有するRNAでは安定化することが明らかになった。この結果は、細胞内の様々なクラウディング環境における応答がグアニンカルテットの枚数によって異なることを示している。すなわち、同じグアニン四重らせん構造でもグアニンカルテットの枚数により、液滴形成への影響や液滴内での挙動が異なることが示唆された。さらに、グアニンカルテットの枚数が異なるグアニン四重らせんは、ヒトのノンコーディングRNA内で異なる分布を示すことも明らかになった。このように、細胞内においてRNAのグアニン四重らせん構造が周辺の混み合った分子環境にどのように応答するのかという系統的かつ定量的な知見が得られており、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は、(1)をさらに発展させる。まず、得られたRNA四重らせん構造の特性が、液ー液相分離にどのように影響するのかを調べる。具体的には、相分離を引き起こすタンパク質やジペプチドを用いて試験管内で液滴を形成させ、そこに様々な配列のRNAを添加し、その局在を蛍光顕微鏡観察により解析する。これらのRNAとタンパク質間の相互作用は、表面プラズモン共鳴(SPR)測定により解析し、タンパク質と核酸の相互作用がどのように液滴形成や消失に影響を与えるのかを検討する。さらに(2)について、(1)で明らかになった、液滴形成に寄与するRNAが、その液滴の物理化学的性質に及ぼす影響を調べる。RNAおよびタンパク質濃度や塩濃度、pH、水の活量などの物理化学的パラメータを系統的に変化させ、液滴形成の過程を蛍光顕微鏡や示差走査熱量計(DSC)により調べる。形成した液滴は、動的光散乱(DLS)測定により、その粒子径を評価する。これらの実験により、RNAの四重らせん構造の特性の違いが、タンパク質との相互作用や液滴の形成に及ぼす影響を系統的に調べる。
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Causes of Carryover |
令和元年度の研究において、細胞内の混み合った分子環境下におけるRNAグアニン四重らせん構造の特性についての知見が得られた。令和2年度は、実際にそれらのRNAが相分離に及ぼす影響を検討する。そのために、令和2年度初期に合成RNAやタンパク質、ペプチドをまとめて購入する予定である。その購入費として令和元年度の消耗品の一部を令和2年度に使用する。
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Research Products
(1 results)