2019 Fiscal Year Research-status Report
多項目解析を可能にする新規走査型イオンコンダクタンス顕微鏡の開発
Project/Area Number |
19K23643
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
井田 大貴 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (80844422)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 走査型イオンコンダクタンス顕微鏡 / SICM / 単一細胞計測 / 生細胞計測 / 電気化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞計測で広く用いられている光学顕微鏡の空間分解能の限界(およそ200 nm)を克服してサンプルの形状、とりわけ生細胞表面の微細構造を観察するには、特別な計測手法を用いる必要がある。そのような細胞表面の形状観察手法として、走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)は魅力的な選択肢の一つである。SICMの最大の特徴は非侵襲性であり、物理的な接触や標識等なしに、細胞表面のナノスケール形状を観察できる。しかし、非侵襲性の発揮のための走査アルゴリズムや電流増幅器の性能など、様々な点において時間分解能を損なう技術的問題を抱えていた。そこで、それらの課題を克服するために、本研究の代表者も含めた様々な研究者がSICMの高速化に取り組んできた。本研究では、従来の高速化とは異なる切り口として、一度の計測で多項目を検出することで、取得するデータ量の増大を図り、単位時間当たりの情報量の向上を目指す。 本年度は、SICMの装置系の立ち上げや走査アルゴリズム・取得したデータの解析ソフトの改良といったソフト・ハード両面の装置改良と、細胞操作などの実験環境の整備に注力し、次年度以降の研究環境を整えた。とくに、装置系では除震機構の徹底や、自作電流増幅器の改良などを行い、従来の装置と比較して一定の性能向上に成功した。次年度では、装置改良の完了と、前述の改良を施した装置を用いて実際の計測に取り組み、エンドサイトーシス系などの細胞の動態観察を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、装置構成や走査プログラムの改良といったソフト・ハード面での装置改善に注力し、当初想定していた目標をおおむね達成することができた。電動マニピュレータと組み合わせた自作ステージや、光学顕微鏡のサイドポートに接続されている他の装置からの振動・電磁ノイズの遮断を更に徹底することで、従来の我々の装置系と比較しそれら影響の低減に成功した。また、SICMの直接的な計測対象であるイオン電流を増幅するための自作の微小電流増幅器の性能改善に努め、帯域と利得を向上させることに成功した。電流増幅器については今後も開発を継続していくものの、装置系は当初予定していた水準を達成できたと言える。ソフト面では、以前より独自開発して使用してきた走査アルゴリズム/解析プログラムの改良を行い、本研究で計画しているプローブ操作が可能な状態を達成した。他にも、細胞培養系の整備などを行い次年度以降の生細胞計測のための準備を整えた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度に構築した装置系を用いて実際の細胞計測に取り組み、細胞動態にまつわるデータの取得を行う。測定対象には申請時から考えていたエンドサイトーシス系に加え、薬剤刺激によって細胞状態を操作し、刺激前後の細胞動態の比較を検討している。また、SICM系の特徴である非標識性を活かし、通常の細胞計測で広く行われている蛍光標識が細胞動態にどの様に影響を及ぼすかについて比較を行う。以上の測定結果から、細胞の動態理解に関わる知見を獲得し、更なる細胞理解の深化を目指す。
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Causes of Carryover |
実験に伴う消耗品や、装置の改造に必要な物品の購入金額が当初の予定額を下回り、一部が次年度での使用額となった。また、新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け、本年度に計画していた旅費を使用することができず、次年度使用額となった。 次年度では、さらに測定対象に合わせた柔軟な装置の改良を続けながらも、実計測を重点的に行っていく。その過程で、細胞計測に必要な消耗品ならびに、除振台などの周辺装置の充実に予算を使用する予定である。また、計画時には未だ予断を許さない状況ではあるが、コロナウィルスの世界的流行が沈静化した際には、国内での情報発信・収集のための出張費として一部を充当する。
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