2019 Fiscal Year Research-status Report
ベイポクロミズムの多段階化に基づく蒸気定量可能性の探索
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19K23649
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
重田 泰宏 金沢大学, ナノマテリアル研究所, 特任助教 (70844025)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 金属錯体 / クロミズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、蒸気の吸脱着に伴って色や発光色が変化する事で、物質の存在を可視化可能な物性「ベイポクロミズム」について、従来研究の主眼であった蒸気の種類の検出のみならず、蒸気の量を定量できる可能性を探索する事である。そのために、溶媒和数の異なった複数の超分子構造の構築が可能となり得るような分子を設計し、この複数の超分子構造間の転移による多段階化と、それを利用した蒸気定量可能性の探索を行う。 当該年度は、多段階蒸気応答性を付与すべく、強発光性が知られている白金(II)錯体骨格に対し、様々な相互作用様式を示すことで知られるハロゲン原子を修飾した新規錯体を合成し、その蒸気応答性の調査を主に行った。特に、対イオンを変える事で数種類の錯体を容易に合成できる、アニオン性白金(II)錯体の検討から着手した。 まず、対カチオンとしてカリウムを有する錯体について蒸気応答性を調べたところ、様々な蒸気に応答して結晶構造が変化し、それに伴って発光波長が変化する事が分かった。溶媒分子を含んだいくつかの単結晶のX線構造解析に成功し、これらの結晶構造では骨格中のハロゲン同士あるいはハロゲンと溶媒分子間の弱い相互作用が見られたことから、修飾したハロゲン原子が結晶構造へ寄与していることを確認した。しかしながら、本錯体の結晶構造にはカリウムイオンへの溶媒分子の配位が支配的な役割を果たしている事が示唆されている。本研究目的を達成するためには多様な超分子構造の獲得が必要と考えられるため、配位サイトとして働く対イオンは目的に対して悪影響を及ぼす可能性があると考えられる。 このことを踏まえると、研究目的を達成するためには、配位サイトとして働かない対イオンや、中性錯体を利用する事が望ましいと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度までに、ハロゲン原子を導入した配位子の合成方法を確立できた。また、合成した錯体が蒸気応答性を示す事を確認し、蒸気応答時に到達する結晶構造を調べ、ハロゲン原子の特徴である、様々な相互作用様式による結晶構造への寄与を確認した。この知見は、ハロゲン原子の導入が多様な超分子構造の構築にとって有望である事を示唆しているとともに、それが蒸気応答性物質にも適用可能である事を示しており、探索する化合物群の妥当性を確認できたといえる。 また、カリウムイオンのような配位サイトの導入があまり望ましくない事が示唆される結果を得た。このことは、探索すべき化合物群を絞る事にあたって有用な知見と言える。 以上の事から、目的とする物性を探索する方向性が計画当初と比べてより定まる結果を得ており、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
得られた知見を元に、配位サイトとして働かないカウンターイオンの利用や、中性錯体の合成を行う。また、それらの蒸気応答性を調査し、ベイポクロミズムの多段階化や定量可能性について探索する。
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Causes of Carryover |
目的とする配位子や金属錯体の合成が順調であり、試薬関連の出費が抑えられた。また、新型コロナウイルス感染拡大に伴う学会の中止によって旅費支出の必要がなくなった事も一因となり、次年度使用額が生じた。 この予算は、合成用試薬としての使用を計画している。当初の計画では、カウンターイオンの変更により相互作用の強弱や結晶構造を変調させる事で、一種類の骨格から多くの金属錯体を合成し、それらの蒸気応答性を追跡する事で、目的とする物性の獲得を試みる予定であった。しかしながら、今年度得られた成果によって、配位サイトとして働くカウンターイオンの利用が不適である事が示唆されたことから、その解決方法の一つとして中性錯体の利用を考えている。中性錯体の場合はカウンターイオンが存在しないため、骨格そのものを変化させる必要があり、合成にはカウンターイオンを利用するよりも多くの検討・試行錯誤を必要とすると考えられる。そのための予算として次年度使用額を使用する予定である。
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