2019 Fiscal Year Research-status Report
電磁波分光を用いた半導体材料の超高圧下構造物性相関解明
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19K23651
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
筒井 祐介 京都大学, 工学研究科, 助教 (50845592)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 有機半導体 / 電気特性 / 圧力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、有機半導体材料の外部圧力に対する電気・磁気特性評価法の確立と、有機材料の電気特性変調の因子評価であって、本年度は高圧下における電荷キャリア伝導描像とくに移動積分や緩和時間の変調に関する評価を行うことを目的とした。
本年度では、有機半導体材料の光電気伝導度の圧力応答性を評価した。伝導度の評価手法として、時間分解マイクロ波伝導度測定法を利用した測定システムの開発を行った。従来の電極を用いた接触法では電気特性は通常、材料と直接接触を取り測定することが多い。接触法の大きな欠点は、多結晶薄膜の場合粒界の影響を大きく受け、材料本来の電気特性を正しく測定することが困難ということである。本実験で開発・使用するマイクロ波法では粒界の存在が測定結果にほとんど影響を及ぼさないため材料の本質的な特性を与える。これは複雑な素子形成や最適化なしに、さまざまな新規半導体材料が迅速に評価できるということを意味し、接触法と比較して大変大きな利点となる。
実験としてチエノアセンをフレキシブル基板に成膜し、基板を曲げることにより材料に圧力を印加したところ、マイクロ波伝導度測定法では圧力印加に伴い光電気伝導度に単調増加が見られた。X線構造解析から歪み率が実測され、これは簡単な幾何学的計算から推察される歪率とよく一致している。理論計算から圧力印加前後での有効質量を見積もったところ、この材料の光電気伝導度の応答増加は、有効質量の減少ではなく、緩和時間の減少にあることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では初年度において、静的異方的圧力下における電気伝導度の異方的変調評価法を確立することを目的としていた。本年度では基板の選定・成膜条件の検討に始まり、素子の作成や配置、圧力導入の方法に改善を重ね、マイクロ波伝導度測定法に対して新たに異方的圧力の軸を追加することに成功した。X線構造解析から材料内部の歪み特性を定量的に測定することに成功しており、これは幾何学的計算により推定される歪み率と良い一致を示していた。また、圧力による光電気伝導度上昇の原因が有効質量ではなく緩和時間によるものであることが理論計算によって支持されている。 本実験系は特に、大きい単結晶が得られない材料に対しても有効である高い汎用性・適用性を有しているため、今後の多くの材料の評価に期待が持たれる。以上のことから、初年度に掲げた目的は本年度終了時点で概ね順調に進展していると考えられる。得られた研究成果は現在論文草稿としてまとめており、5月中を目処に国際学術誌に投稿する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究によって確立した異方的圧力下におけるマイクロ波伝導度測定法を多くの材料系について展開する。特にアセン系の化合物は大きめの単結晶が得られやすい物質であるが、異方的圧力下における電気伝導度の変調が測定された例は少なく、より多くのパラメータを取得できる可能性がある。加えて、本実験系でしかなしえない材料として、結晶性は高いが一軸方向に結晶が成長してしまい大きな単結晶が得られない材料系を測定する。またMOFやCOFなどの多孔性プラットフォーム内部に導入した孤立高分子材料に対しても本実験系が適用可能であると考えられる。圧力印加に伴い空隙のサイズが小さくなり、高分子材料のエントロピーを減少させた状態での伝導度測定が可能であると期待される。この状態では高分子一本鎖の平均持続長が向上すると考えられ、その鎖方向への電気特性の変調が期待される。加えてスピン輸送特性の評価についても引き続き実験を行いマイクロ波を用いた非接触測定系を開発する予定である。
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Causes of Carryover |
購入予定であったシリコンフォトディテクタが研究室の古い設備として残っており、特性を検討したところそのまま本実験に用いても良いことがわかったため、少々の次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、予算上廉価な部品を使用する予定であった光学部品の購入費用(本来100,000円と計上していた)として、合算した149,492円を使用してより上位の部品を購入し、測定の感度を向上させるために使用する予定である。
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Research Products
(3 results)