2019 Fiscal Year Research-status Report
ベイズ推定が解き明かす食品の微生物学的リスクの実態:農場から食卓に至る予測評価
Project/Area Number |
19K23655
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小山 健斗 北海道大学, 農学研究院, 助教 (60845907)
|
Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
|
Keywords | ベイズ推定 / 微生物学的リスク / 確率論 |
Outline of Annual Research Achievements |
100年前に計算された缶詰における芽胞菌の死滅時間の計算は細菌挙動の数理モデル化の第一歩目の報告である。現在の多くの数理モデルはこのBigelowのモデルを原則とし,ある時間における細菌数の平均値を計算する。従来,10^4個以上の細菌数を対象に研究が行われてきたが,食品の汚染のほとんどは低濃度での汚染が原因であり,100個未満の少ない細菌では個体差の影響が表れ平均値での評価が困難である。生物と統計由来のばらつきにより,細菌の増殖・死滅挙動は平均値から離れる。そのため,平均値では細菌挙動の全体を把握できず,リスクを考慮した微生物学的な安全性の評価が不十分である。平均値による点での評価から,確率による幅での評価への転換が求められている。確率論を用い,ばらつきを含めた細菌挙動全体の定量的な評価が必要である。 本研究の目的は,生物・統計由来のばらつきを含めた細菌集団の挙動の予測をする確率モデルの開発である。屠殺・収穫直後から喫食に至るまでの生鮮食品における細菌挙動のデータ収集し,平均値から離れた増殖・死滅挙動を予測する。ベイズ統計を用い,生物・統計由来のばらつきを包括的に扱う。食中毒細菌による健康被害のリスクを計算するために必要な喫食時の細菌数の確率分布,消費期限の設定に必要なある細菌数に至る時間の確率分布を明確にする。本研究は,100年前に提案された平均値に基づく頻度論統計からベイズ統計へと計算手法を根本的に変える挑戦的な研究である。ばらつきを包括的に扱う試みはカビやウイルスによる健康被害の計算にも応用が可能であるため関連する研究分野への波及研効究果が高い。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ベイズ統計の理論に裏打ちされた体系的なばらつきのまとめを目指して研究を進めている。数学の理論的な解釈が困難であることから,学内外の数学の専門家にアドバイスを頂きながら,研究を進めることとなった。現在は,海外の数学者とのやりとりを行っており,理論的な部分の解釈を確かなものにしている。プログラミングに関しては,R,Python,Stanといったオープンソースプログラミングを用いて,モデルの開発を行っている。実験に関しては,主にサルモネラの増殖に焦点を当てて研究を行った。研究計画通り,50反復の実験を行い増殖挙動の様子を観測した。常温での少ない細菌の挙動は,従来の10^4個以上の細菌挙動と異なり,細菌集団挙動のばらつきが顕著に見られた。ベイズ統計より簡易なモンテカルロシミュレーションを用いて,おおよそ細菌の挙動を再現できるようになった。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究の核となるモデル作成を中心に進めていきたい。ベイズ統計では結果の解釈が重要な位置を占めている。昨年度まで得られた結果について吟味する必要がある。昨年度の研究で,確率統計の知識を活用することで従来の平均値に基づく細菌挙動から細菌挙動のばらつきが評価できるとわかったので,食品中の細菌の死滅,増殖に関してはデータベースを基に計算を進めてみる。一度また,今年度,オープンアクセスジャーナルへの論文の執筆に取り掛かっていく。オープンソースのプログラミング言語を用いているため,論文を投稿する際には,プログラミングのコードも公開する予定である。最終的に,従来の殺菌条件,保存条件に対して確率論ベースの提案を行えるよう目指す。
|
Causes of Carryover |
実験がうまくいったこともあり,消耗品の消費が予想より少なかった。今年度は実験道具の購入を行う。今年度に論文を投稿することになったため,英文校正やオープンアクセスジャーナルの支出に用いる。
|
Research Products
(2 results)