2019 Fiscal Year Research-status Report
糸状菌を取り巻く生物間相互作用における一酸化窒素の機能解明
Project/Area Number |
19K23657
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
老木 紗予子 筑波大学, 生命環境系, 研究員 (40843090)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | 糸状菌 / 一酸化窒素 / ファルネソール / Aspergillus |
Outline of Annual Research Achievements |
動物、植物、細菌などの生体内でNOはシグナル分子として機能するが、糸状菌におけるその生理機能は不明なままである。植物精油成分であり抗菌活性を示すファルネソールは、一部の真菌や細菌でも産生される。本研究では、ファルネソールに対する糸状菌のNO産生を介した応答分子機構を解析し、微生物間相互作用におけるNOの生理機能を明らかにすることを目的としている。 今年度は、ファルネソールによって誘導される糸状菌Aspergillus fumigatusのNO産生とストレス耐性・細胞死との相関を明らかにするため、ファルネソール処理したA. fumigatus菌糸細胞内におけるNO、アポトーシス、およびアポトーシスを誘発する活性酸素種(ROS)の定量を行った。NO・ROS各検出蛍光プローブを用いて細胞抽出液の蛍光を測定した結果、ファルネソール存在下でNOおよびROSレベルが上昇した。また、NO消去剤とROS消去剤によってNOとROSの産生は相互に抑制されたため、ファルネソールによって誘導されるNOとROSの産生には相関があることが示唆された。ボリコナゾールやアムホテリシンなどの抗真菌薬はA. fumigatusのNOおよびROSの産生を誘発しなかったことから、ファルネソールの作用機序は、抗真菌薬のそれとは異なると考えられる。続いて、TUNEL法およびゲル電気泳動によってアポトーシスの検出を行ったが、NOとROSの産生を誘発するファルネソール処理でアポトーシスは検出されず、アポトーシスとの相関は見られなかった。一方、ファルネソールによって引き起こされるA. fumigatusの胞子発芽遅延と生育阻害がNO消去剤およびROS消去剤によって抑制された。本成果によって、A. fumigatusがファルネソールに応答してNOとROSを産生し、胞子の発芽遅延と生育阻害を引き起こすことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初の予定として、(1)NOとストレス耐性・細胞死との相関、(2)NOによるタンパク質の翻訳後修飾、(3)NOを介した生物間相互作用を明らかにする計画を立てた。(1)に関しては、今年度の研究により、NOとROSが互いの産生を引き起こし、生育阻害を生じさせることから、ストレス耐性ではなく細胞死と相関があることを示唆することができた。(2)に関しては、次年度に行う予定である。(3)に関しては、ファルネソールを産生する枯草菌を探索し、候補となる種の培養上清からLC/MSによって微量のファルネソールを検出した。また、ファルネソール処理したA. fumigatus菌糸について、トランスクリプトーム解析を進めた。以上より、研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はNOによって修飾されるタンパク質の探索およびNOを介した微生物間相互作用の研究を進めていく予定である。具体的には、S-ニトロソ化・ニトロ化の標的となるタンパク質をビオチンスイッチ法・抗ニトロチロシン抗体を用いたウェスタン解析によって同定する。また、ファルネソール非産生枯草菌を作製してA. fumigatusと共培養し、A. fumigatusのRNAシーケンス解析を行う。さらに、ファルネソールおよびファルネソール産生枯草菌によって誘導されるA. fumigatusの二次代謝産物をLC/MSにより同定する。一方、当初の予定にはなかったが、ファルネソールに対するA. fumigatusの応答として、各転写因子破壊株を用いてファルネソールへの感受性を評価し、NOとの関連を調べていきたい。
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Causes of Carryover |
今年度発表予定であった農芸化学会大会2020年度大会が新型コロナウイルス感染症の感染拡大の防止のため中止となり、その旅費が次年度使用額として生じた。次年度の消耗品費として使用する予定である。
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Research Products
(4 results)