2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K23714
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤田 理紗 東京大学, 定量生命科学研究所, 特任研究員 (10845291)
|
Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
|
Keywords | 非コードRNA / ヌクレオソーム / クロマチン |
Outline of Annual Research Achievements |
真核生物において、ゲノムDNAはクロマチン構造を形成している。クロマチン構造では、ヒストンとDNAから構成されるヌクレオソームが数珠状に連なっている。クロマチン構造はヒストンの解離や交換、ヌクレオソームの形成位置の変化などを介して、動的に変化することで、遺伝子の発現、複製、修復などの機構を制御している。クロマチン構造の変化を誘起する因子のひとつに非コードRNAが挙げられる。タンパク質をコードしないゲノムDNAから転写された非コードRNAの一部は核内に係留し、遺伝子の発現制御に機能していると考えられている。再発乳がん細胞で多量に発現している非コードRNAであるエレノアRNAは、クロマチン上に集積して目的遺伝子の発現を活性化するが、その詳細な機構は明らかでない。そこで本研究では、クロマチンの転写制御機構における非コードRNAの機能解明を目的としている。 これまでにエレノアRNAを含めた非コードRNAはヌクレオソームからヒストンH2A-H2B複合体の解離を促進することが、生化学的解析によって見出されている。また、遺伝子発現機構においてクロマチン上でRNAポリメラーゼII (RNAPII)が転写伸長する際に、ヌクレオソームを乗り越える必要がある。これらを踏まえて、エレノアRNAがヌクレオソームの構造を変化させることで、RNAPIIの転写伸長に影響を及ぼす可能性を考えた。その点を検証するため、本年度は、RNAPIIの転写伸長に対する非コードRNAの効果を評価するためのin vitro試験系の確立に取り組んだ。また、エレノアRNAによるヌクレオソームの構造変化を観察するため、エレノアRNA存在下でのRNAPII-ヌクレオソーム複合体のクライオ電子顕微鏡を用いた解析に着手している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
令和元年度では、申請者が新たに発見した非コードRNAがヌクレオソーム中のH2A-H2B複合体を解離させる活性についてまとめ、Communications Biology誌に申請者を第一著者として発表した。そして引き続き、非コードRNAによるクロマチン転写制御機構の解明を目指し、試験管内で調製したエレノアRNAとヌクレオソームを用いた解析を行なっている。令和元年度は、既に確立されているヌクレオソーム上のRNAPII転写試験系を基に、非コードRNA添加時の転写試験系を反応時間や反応温度の検討を行うことで確立した。また、定量性を高めるために反応系の改良を行った。それにより、エレノアRNAの有無によるRNAPIIの転写活性への影響の評価が可能となった。また、非コードRNA存在下における転写中のヌクレオソームの状態を明らかにするために、エレノアRNAを加えた状態でのRNAPII-ヌクレオソーム複合体のクライオ電子顕微鏡による解析を進めている。解析に先立って、観察に用いる高純度な複合体を得るために試料調製法の検討を行った。具体的には、複合体に取り込まれなかった因子を除去するための密度勾配遠心分離法における架橋剤の種類や濃度、試料の濃度などを検討した。氷包埋試料作成時には、氷薄膜の厚さを適切にするために、余分な水分を取り除く工程であるブロットの時間や強度を検討した。それによって、構造解析可能な凍結試料が作製でき、クライオ電子顕微鏡による観察が可能となった。現在、取得した電顕像を用いて、単粒子解析を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は、昨年度に確立した非コードRNA添加時のRNAPII転写試験系を用いて、エレノアRNAによる転写活性の効果を定量的に評価する。また、エレノアRNA以外の配列を用いた場合や転写因子を加えた場合など様々な条件で非コードRNAの効果を評価することを試みる。非コードRNA存在下でのRNAPII-ヌクレオソーム複合体のクライオ電子顕微鏡による解析では、ヌクレオソームの状態が異なる構造クラスが複数存在することを見出した。それぞれの構造クラスの立体構造を3次元再構築するためには、現状では各クラスに含まれる粒子数が不十分である。さらに非コードRNAを添加した試料の電顕像では、ヌクレオソームに結合していないと見られる非コードRNAが多く観察された。それによって、目的の粒子とバックグラウンドノイズとの区別が困難になり、抽出可能な粒子数では高分解能での3次元再構築には十分でない。これらの点を克服するため、より多くの粒子を取得する必要があると考え、クライオ電子顕微鏡像の撮影枚数を増やすことを計画している。画像取得後には、詳細な構造解析を進め、非コードRNA存在下におけるRNAPII-ヌクレオソーム複合体の構造について明らかにする。この解析と並行して、非コードRNAがヌクレオソーム中のH2A-H2B複合体の解離を促進する機構を構造生物学的に解析する。そこで、非コードRNAとH2A-H2B複合体の結合機構に着眼し、その機構を明らかにするため、X線結晶構造解析を行う。構造解析が立ち遅れた場合には、重水素交換質量分析(HDX-MS)による高次構造解析を行うことで、非コードRNAがヒストン複合体に作用する機構の解明を目指す。
|
Research Products
(2 results)